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■ 研究員ブログ62 ■ 金色に輝く社殿……伊勢神宮は世界遺産になる?

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先日、遷宮後はじめて伊勢神宮を参拝してきました。

生憎の雨天でしたが、人のほとんどいない早朝参拝にも参加し、
伊勢神宮を満喫することができました。
雨に濡れた真新しい檜の素木の社殿は、
鬱蒼とした木々の中で金色に輝いて見えて神々しかったです。

最近よく話題になる
運気や恋に効くという類の「パワースポット」という言葉は
好きじゃないですし興味もありませんが、
自然信仰から始まった神道の神域には、
確かに周囲とは違う神性を感じるものがあります。
特に自然に抱かれている伊勢神宮のあの厳かな雰囲気は、
特別なものがありますね。

遷宮のための檜の植樹をしているため、
宮域林には古木も若木も入り乱れていて、
そんな立体感のある自然もよかったですし、
遷宮後の更地になっている古殿地で、
数ヶ月前まで神様が鎮座していた場所に小さな祠だけが残る姿も、
神の余韻がまだ感じられるようで美しかったです。

日本人の総氏神として信仰を集めている伊勢神宮ですが、
皆さんもご存知の通り、世界遺産ではありません。

伊勢神宮や出雲大社はなぜ世界遺産じゃないのですか?
とよく聞かれます。

確かな理由は僕もわかりませんが、
考えられる理由はいくつかあります。

まず、伊勢神宮や出雲大社は独自の方法で
長い長い年月、保存継承されてきており、
特に「世界遺産」という枠組みでの保存は求めていない、
ということが考えられます。

同時に「世界遺産」というステータスにも
価値を見出していないのでしょう。

確かに今さら「世界遺産」という体制の下で
保存継承する必要はないと僕も思います。

素晴らしいもの、価値のあるものを全て
世界遺産にしないといけない訳ではありません。
それは、あの見る者を圧倒するミラノの大聖堂が
世界遺産になっていないことからもわかります。

もうひとつ、これは伊勢神宮にいえることですが、
「遷宮」を行っていることが、
世界遺産の保護の考え方とは決定的に相容れないのです。

遷宮は伊勢神宮だけでなく、
世界遺産になっている上賀茂神社や下鴨神社、
春日大社などでも行われていますが、
その方法が異なっています。

伊勢神宮は昔から変わらず、
社殿を隣接する敷地に全て新たに建て直し、
そこに神さまに移ってもらう方式が採られています。
一方で上賀茂神社などや出雲大社は、
神さまにちょっと仮住まいしてもらっている間に社殿を修造し、
新しく綺麗に改修された社殿にまた戻ってもらう、
という方式の「遷宮」を行っています。

これは世界遺産で重視される「真正性」の観点では、
全く意味合いが異なります。

上賀茂神社などの方式は、真正性に基づき「修復」され、
伝統を継承していることになりますが、
伊勢神宮の方式は、新たに建て直しているため、
建築材や建築技法などが伝統に則ったものであっても、
作られた当時のものを残し受け継ぐという意味での真正性は
認められません。

そのため、伊勢神宮が世界遺産になるのは難しいのです。

僕は「世界遺産 伊勢神宮」なんていうと、
ちょっと安っぽいような感じがして、
伊勢神宮は、そのまま「伊勢神宮」がよいと思います。
正宮で特別参拝をさせてもらいながらそんなことを思いました。

東京に戻ってきたら春らしい青空で嬉しいです。
今週末には桜も見ごろでしょうか。

万葉集に
「鴬の 木伝ふ梅の うつろへば 桜の花の 時かたまけぬ」
という一句があります。
実は今回、晴天の京都で鴬の歌声を聞くことができました。
梅の花から桜の花へ。
通勤の駅までの道のりが楽しい季節になりましたね。
職場に行かず、のんびり庭園で観桜できたら、なお楽しいですが……。