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■ 研究員ブログ76 ■ 明治日本の産業革命遺産、世界遺産の新たな段階へ!

三池炭鉱万田坑002

日本から19件目の世界遺産が誕生しました!

いやぁ、ほっとしました。
ICOMOSから登録勧告が出された遺産で、
本会議での登録決議までこれほどにもさまざまな注目を集めた遺産は、
これまで日本ではなかったのではないでしょうか。

『明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業』は
日本の世界遺産を新しい段階へと進めるものだと、僕は思っています。
いろいろな課題がある分、可能性も大きいのです。

◆ 現在も生きている遺産

まず、稼働中の遺産が含まれている、という点です。
「世界遺産」というと「過去のもの」というイメージをもつ人が多いですが、
稼働中の遺産は、世界遺産は今も生きて目の前にあり、
今の自分たちの経済や生活と確実に結びついている、ということを
明快に示してくれています。

これは何百年も前に作られた教会に
今も多くの信者が訪れている、という現在性とは違っています。

また稼働中でないものでも、遺産に深く関わった人が今も存命しているものもあり、
地域の人々がその存在や歴史を身近な誇りとすることにつながっています。

世界遺産は「公開が原則」ではありませんので、
稼働中の遺産が必ずしも地域に開かれるわけではありませんが、
自信を失っているように感じる東京以外の地域において、
人々が自分たちの歴史を再評価するきっかけになると思います。

◆ シリアルノミネーション

今回のように日本の広範囲に点在するシリアル・ノミネーションは初めてです。

シリアル・ノミネーションというのは、複数の構成資産を用いて
「ひとつの世界遺産」としての顕著な普遍的価値を
それぞれ異なる角度から立体的に証明するものです。

つまり、個々の資産が必ずしも顕著な普遍的価値をもっているわけではありません。
構成資産のひとつだけを訪れても「世界遺産としての価値」は解らないのです。

『姫路城』を観て素晴らしい! これぞ世界遺産! と感じたのと同じ経験をするためには、
23の構成資産すべてをまわらなければならない、ということになります。
これはあまり現実的ではないでしょう。

今回の登録は名前から誤解されがちですが、
「産業遺産」の価値が評価されたというよりも、
「日本の近代化を産業遺産から証明するストーリー」が評価されたと考えるほうが妥当です。
そのため松下村塾や萩城下町などが含まれているのです。

構成資産をもつ地域は、他の地域・資産と連携しながら、
横のつながりで保全計画や観光計画・対策などを考える必要があります。
構成資産をもつ地域の人々も、観光で訪れる人々もそこを意識しないと、
「これが世界遺産? がっかり。」ということになりかねません。

横のつながりをもって遺産を保護・保全してゆけば、
資産をもつ地域間の交流も生まれ住民同士もつながりを感じることができるし、
つながりからより大きな歴史や産業化について学ぶこともできます。

また観光客に対しては『知床』でやっているように、
その遺産のことを学んでからエリアに入るということを
『明治日本の産業革命遺産』のそれぞれの構成資産でもやるといいと思っています。
行ってただ見ただけでは、まず価値を理解できないものが多いのですから。

◆ 歴史の多面性を学ぶ

今回もっとも世間の注目を集めたのは、
韓国との間で登録の是非を巡ってもめた点です。

今はあまり日韓の関係がよくないこともあり、
世界に対して恥ずかしい思いもしたし、
関係委員国にも大きな迷惑をかけました。

『明治日本の産業革命遺産』は確かに、
政治利用につながるような歴史問題が含まれています。
しかしこれは、すごい可能性を秘めているコトだと思います。

歴史にはさまざまな側面があり、光りの部分も影の部分も必ずあります。
当然、見る人によっても感じ方や捉え方が異なります。
歴史はそうした多面的なものだと日中韓の若者や人々が学ぶ上で
この世界遺産は格好の教材となるでしょう。

日本の価値観だけでは世界と対話はできません。

すぐには難しいかもしれませんが、
日中韓が共通の東アジアの歴史を築くよいきっかけになると信じています。

今回の『明治日本の産業革命遺産』は課題も多いですが、
日本人が「世界遺産」というものをもう一度よく考え直し、
次の段階へと進む第一歩にしてゆけたらよいですね。

『明治日本の産業革命遺産』登録に関わった皆さま、
構成資産の地元の皆さま、本当におめでとうございます!
ここからが始まりです!