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■ 研究員ブログ88 ■ イリオモテヤマネコは待っている……奄美・琉球

2016.02.26

僕が子どものころ、うちには猫が一匹いました。
幼稚園児だった僕が拾ってきた時、
大人の片手に乗るくらいに小さくて、目もろくに見えていなかったのに、
みるみるうちに体重6kgほどもある巨大な猫になり、
本人(本猫?)は、末っ子の僕よりも立場が上だと思っていたようです。

うちに訪ねてきた保険の外交員の方が、
下駄箱の上に座ってる猫を見て、
「うわっ、イリオモテヤマネコですか!?」と驚いたのが、
長いことうちでの笑いの種になっていました。
ふてぶてしい表情や縞模様が確かに似ていたのです。

そんなことを何十年ぶりに思い出したのが、
「西表島全域を国立公園に指定」というニュースです。

「奄美・琉球」の構成資産として世界遺産登録を目指す西表島は、
島全域を国立公園に指定するだけではなく、
動植物の採取を原則的に禁止する「特別保護地区」を
これまでの約2.5倍の46平方kmにまで拡大し、
島の半分を新たに建物の建設を原則的に禁止する
「第一種特別地域」に指定しました。

IUCNのレッドリストで「絶滅寸前(CR)」に
リストアップされているイリオモテヤマネコなどを保護するため、
本気で動き出している気がします。

イリオモテヤマネコには勝手に親近感を抱いているので嬉しいです。

しかし、国の行動を後押ししているのは、
世界遺産センターからの「ダメ出し」です。

2003年、「奄美・琉球」は、環境省と林野庁により、
知床や小笠原諸島と共に世界遺産候補地にリストアップされました。
しかし、日本から世界遺産センターに暫定リスト記載の申請をしたのは
10年も経った2013年のこと。

それがなんと、日本政府が10年もかけて準備した暫定リストの申請を、
世界遺産センターは「差し戻した」のです。

「差し戻した」という表現は正しくありませんが、
世界遺産センターは、申請内容が不十分であるとして、
暫定リストへの記載を行いませんでした。

その背景には、地権者や関係機関との調整がつかなかったことや、
保護計画がはっきりしていなかったことなどの理由で、
世界遺産候補地の具体的な地名は挙げず、
「南北約850kmに点在する島々とその周辺海域」という
あいまいな表現で申請したということがあります。

これでは広すぎて何をどのように保護するのかわからない、
というのが世界遺産センターの言い分でした。

その後、日本政府は構成資産を、
「奄美大島」「徳之島」「沖縄本島北部」「西表島」に絞って
2013年中に再申請を行いましたが、
2016年2月26日現在、まだ暫定リストには記載されていません。

これは不思議な話で、
世界遺産センターの指摘はまったくその通りだと思うのですが、
暫定リストへの記載申請の段階で、
遺産の価値や保全計画の内容にまで言及して受け付けない、というのは
僕は聞いたことがありません。

作業指針の中には「提供された情報に欠落がなければ、
暫定リストは事務局に登録される。」と書かれていますが、
この「欠落」というのは、内容ではなく、
書類手続き上の不備があるかどうか、ということです。

ですから、普通は、ある程度あいまいなまま暫定リストに記載し、
その後、推薦の段階で構成資産を絞り込んだり、
国宝や国立公園に指定して保護計画を策定したりしてから、
推薦書を提出するのです。

暫定リストに記載する段階では、
少しは漠然としていてもいいはずなのですが、謎です。

日本政府としても、2017年の世界遺産登録を目指して、
今年の2月1日までに推薦書を出そうとしていましたが、
暫定リストに載っていない遺産は推薦できないので、
どうするつもりだったのでしょうか。

結局、今年は推薦書を出さなかったので、
世界遺産登録は2018年以降に先送りになりましたが、
「奄美・琉球」が暫定リストに記載されない理由を
はっきりさせた方がよい気がします。

理由として、いろいろな方からさまざまな情報や噂は聞きますが、
実際のところはどうなのでしょうか。

ただ、指摘を受けて国立公園化などを進めていますが、
今のままではまだまだ推薦までの道のりは長いと思います。

世界遺産に推薦する区域がはっきりとしているのは
今回の「西表島」だけで、
「沖縄本島北部」も「奄美大島」も「徳之島」も、
調整が終わっておらず、推薦区域が決まっていません。

また国立公園化などの保護の強化もまだまだですし、
米軍や自衛隊の基地の問題もあります。
基地は推薦区域外であっても保護の課題となる可能性があります。

IUCNは、自然遺産の登録は完成に近づいてきていると考えています。
世界の各自然や生態系を代表する遺産は概ね登録されたと考えているのです。
それもあって、昨年の自然遺産の登録数は0件でしたし、
今後も大きく増えることはないでしょう。
それだけ厳しく見ているということです。

「奄美・琉球」の美しい海やイリオモテヤマネコなどの生態系を
ぜひとも守っていきたいと思いますが、
それが「世界遺産」という方法になるのかどうか。

また、「世界遺産」として守る必要性を
地権者や地域住民がしっかりと理解して納得することが、
国立公園化などと同じく重要になってきます。

僕は、枠組みはどうあれ、豊かな日本の自然が守られることを望んでいます。
あの辺りはいろいろとありますから。
もちろん、世界遺産で暮らすイリオモテヤマネコに会いに行けたら
最高なのですが。

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