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■ 研究員ブログ111■ クロマニョン人はただ者じゃない……世界遺産ラスコー展

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実物大で再現される壁画「黒い牝ウシ」(c)SPL Lascaux international exhibition

明けまして、おめでとうございます。
2017年をどのように迎えられたでしょうか。

年々、正月というハレの高揚感も非日常感も感じにくなっているのは、
社会のせいなのか僕自身の感性のせいなのか。
『男はつらいよ』シリーズの元旦の朝のシークエンスのように、
「めでたさ」を積極的に演出することも大事なのかもしれませんね。
面倒くさがらずに。

新年早々、東京上野の国立科学博物館で開催中の
『世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が残した洞窟壁画~』を
観せていただく機会がありました。
東京藝術大学教授の日比野克彦さんと国立科学博物館の海部陽介さんが
ラスコー洞窟について対談されるということで、
対談前の観覧に立ち合わせていただいたのです。

この特別展の監修者である海部さんの言葉で印象に残ったのが、
「クロマニョン人は入らなくてもよい洞窟の奥深くに入ったのです。」
というもの。

ラスコー洞窟は全長約200メートルもあり、
最も深いところにある「井戸状の空間」は、
垂直に縄梯子などをつかって5メートルも下らないといけない場所にあります。
漆黒の暗闇の中を小さなランプの明かりだけを頼りに進み、
そこに絵を描いたのはなぜだったのでしょうか。

厳しい自然や動物などの脅威から身を守るためであれば、
そんなにも奥深くに入り込む必要はありません。
実際、ネアンデルタール人は洞窟深くには入っていないと
考えられているそうです。

これが現代人により近いクロマニョン人らしいところです。
生命体として生きるうえで最小限必要なことに加えて、
何かしらの精神的な動機が、彼らを衝き動かす力になっていたのでしょう。

ネアンデルタール人は壁画を残していないと考えられていますが、
(スペインにある壁画の一部をネアンデルタール人のものとする説がありますが、
あまり支持されていないようです。)
クロマニョン人には、「壁画を描く」という高度な精神世界がありました。

今回の展覧会は、実際の洞窟の壁面を再現した凹凸に、
実物大で壁画が描かれており、
ラスコー洞窟を本物のように感じることが出来る
「ラスコーⅢ」とされています。

ちなみに「ラスコーⅡ」は、中に入ることの出来ないオリジナルの近くに、
レプリカとして作られたもので、
今回のラスコーⅢは海外などでも展示できる精巧なレプリカです。

この精巧に再現されたラスコーⅢからも、
クロマニョン人のイマジネーションの豊かさを感じることが出来ます。
デフォルメされつつ細部まで表現された「黒い牝ウシ」や「褐色のバイソン」、
シカやウマの群れなどからは、描いた理由はわからなくても、
2万年も前に生きた彼らの強い思いが伝わってくるのです。

面白いのが、彼らは絵の上に、さらに別の絵を重ねて描く、
ということをよくしていることです。

「壁画を描く」ことが「誰かに何かを伝える」ということであれば、
重ねて描くことはしないはずです。見づらくなるだけなので。

恐らく彼らは、「描く」こと、自らのイマジネーションを「表現する」ことに
意味を見出していたのでしょう。

もちろん、日比野さんが指摘していたように、
その壁面が彼らにとって強い思い入れのある場所だった、ということもあると思います。
それ以上に、彼らの内なる表現への欲求が壁画を描かせたのではないでしょうか。

表現することへの強い思い。

何十キロも離れた場所まで顔料を取りに行き、動物の毛などで筆をつくり、
暗い洞窟の中でランプに火を灯しながら巨大な壁画を描く。
日比野さんがおっしゃっていたように、
よほどの強い思いがなければ描けなかったでしょう。
あの時代は強い思いがなければ何ひとつ出来なかったとも言えますが。

こうした歴代の人々の強い思いがひとつひとつの文化を作り上げ、
現在にも残る建造物や記念碑などを築き上げてきました。

「原始人なのにすごい!」というのは誤った認識で、
クロマニョン人がすごかったのでその次の文化があり、
それが積み重なって、現在の僕たちの目の前の世界になっているのです。

もちろん、クロマニョン人だってアフリカでホモ・サピエンスが進化した結果です。
彼らが突然ヨーロッパで進化したわけではありません。
……海部さんの受け売りですが。

僕たちは科学技術が進歩して、さまざまなことを苦労せずにできるようになりました。
その一方で、何かをしたいという強い思い入れやイマジネーションは、
どうなっているでしょうか。

例えば、伝統文化と呼ばれるものの多くは、近年急速に後継者を失い廃れつつあります。
伝統が受け継がれなくなっている背景には、
人々の文化に対する強い思いというものが変化してきているのだろうと、
ラスコー展を観ながら考えていました。
「伝統文化を受け継がない」、という強い思いがあるのであればまだしも、
僕の正月のように、なんとなく気持ちが乗らないだけというか、
楽なほうに流れていっているだけというか。
文化なんてそういうものだと言ってしまえば、身も蓋もないですが。

今回のラスコー展を観ていて思い出したのが、
特任研究員の目黒さんのことです。
目黒さんは「~の方々」という言い方が好きで、
ガイダンスなどでも「イスラム教の方々」や「ローマ帝国の方々」というように
ちょっと独特な言い回しをしているのですが、
クロマニョン人に対しても「クロマニョン人の方々」と言っていたと、
以前、事務局内で笑い話になっていました。

でも、クロマニョン人の壁画やトナカイの角に彫ったレリーフ、骨で作った針などを見ていたら、
「クロマニョン人の方々」と呼ぶことも吝かではない気がしてきました。

クロマニョン人の方々、すごいです。

【世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が残した洞窟壁画~】
会場:国立科学博物館(東京、上野公園)
会期:2017年2月19日(日)まで
巡回:東北歴史博物館(宮城)2017年3月25日(土)~5月28日(日)
   九州国立博物館(福岡)2017年7月11日(火)~9月3日(日)
公式サイト:http://lascaux2016.jp/