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■ 研究員ブログ131 ■ アメリカ合衆国のユネスコ脱退を考える……世界遺産への影響は?

アメリカ合衆国とイスラエル国が、ユネスコからの脱退を決めた、
というニュースが届きました。
ユネスコが「反イスラエル的」で「政治的に中立でない」ということが
一番大きな理由のようです。
背景には、アメリカ合衆国の国内法やトランプ政権内の事情などもありますが、
そのあたりは詳しい方の解説に譲ります。

これから世界遺産はどうなるのか? という質問も受けたのですが、
アメリカ合衆国とイスラエル国がユネスコから脱退しても、
すぐに世界遺産活動に対して大きな影響があるわけではないと思います。
アメリカ合衆国の世界遺産がリストから削除されることもありません。

もともと、アメリカ合衆国とユネスコはあまり相性が良いとはいえず、
アメリカ合衆国はかつても、1984年から2003年まで
ユネスコを脱退していたことがありました。
その脱退期間中もアメリカ合衆国の世界遺産登録はなされていますし、
ユネスコ脱退と世界遺産活動は基本的には別のものです。
世界遺産はユネスコで採択されたとはいえ、
「世界遺産条約」に基づいた活動ですから。

しかし、アメリカ合衆国がユネスコの分担金(22%ほど)を拠出していないことで、
世界遺産活動を含むユネスコの活動が、資金不足のために停滞することは考えられます。
すでにその兆候は現れています。
また、国家としての決定が、アメリカ合衆国のNGOなどの活動に
経済面も含めて影響を与えることも考えられます。

一方で、今月末の「世界の記憶」の審議で「従軍慰安婦関連」が登録されると、
日本国内でも、アメリカ合衆国と同じくユネスコから脱退すべき、
という意見は出てくるでしょう。

アメリカ合衆国はもともとモンロー主義の国ですから
国際機関からは距離をおく傾向があります。
日本は国際機関から距離を置くと、国際的なプレゼンスを下げるだけなので
同じに考えないほうがよいと、僕は考えています。
「お金を出しているのに、ユネスコ内での日本の発言力が上がらない」
というのは、以前も研究員ブログで書きましたが、別の要因があります。
「南京大虐殺」と「従軍慰安婦」に関する「世界の記憶」登録の問題自体は、
ユネスコの理念に反していると考えていますので、
高いレヴェルで日本国としての意見を言う必要があり、
その方法は、日本の場合はユネスコ脱退ではないはずです。

今後、国際的に影響力のあるアメリカ合衆国がユネスコから脱退することで、
国際機関に対して同様の圧力のかけ方をする国が出てくるかもしれません。
イスラエル国の脱退は明らかにその流れです。
ユネスコも何らかの対応をせざるを得ないでしょう。
ブレクジットの問題もそうですが、国際協調と逆行する流れにあることは、
世界遺産活動やユネスコの理念とも逆行するもので、
あまりよい傾向とは言えない気がします。

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