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■ 研究員ブログ133 ■ 観るほどに知りたくなるアンデス文明……古代アンデス文明展

私たちが世界遺産に求めるものはさまざまです。
華やかな宮殿や壮大な大自然、異国の街並み、背筋が伸びる宗教空間……。
中でも多くの人を惹きつけるのが、
まだまだ多くの謎に包まれた古代文明の遺跡です。

僕にとって神秘的な古代文明の遺跡といえば、
子供のころからずっと中南米の遺跡でした。
エジプトのピラミッドよりも、マヤやインカの遺跡だったのです。
子供の頃にテレビで見ていた
『太陽の子エステバン』というアニメの影響が大きいことは否めません。

密林の中にツタに覆われた朽ちかけのピラミッドがあり、
見たこともないような形の文字や紋様が彫られていて、
どんな文明でなぜ滅んだのかわからないために、
超常的な力を今でも秘めているような錯覚に陥ってしまう。
ちょっと怖いけれどいつか見てみたい……そう思っていました。

今回『古代アンデス文明展』を観せていただいて、
あの子供のころの興奮が蘇ってきました。

古代アンデス文明とは、スペインが南米に訪れる1532年以前に、
ペルーを中心にボリビアの辺りまで
アンデス山脈から太平洋沿岸までの広さに興った、
数々の文化・文明の総称です。

古いものでは紀元前3,000年頃にはペルー北部沿岸に
世界遺産『カラル・スペ』などの神殿が多く築かれました。
その後のアンデス文明では、
広域をひとつの文明が文化的に統一する時代と、
各地にさまざまな文明が興る時代とが交互に訪れました。

そのためもあって、「アンデス文明」という括りの中で
緩やかな統一感と連続性はあるものの、
地域ごとで異なる特性をもつ文明が生まれます。
今回の『古代アンデス文明展』では、
時代ごとに各文化を転々としながら観ていくことができるために、
その共通性と相違点がとてもよくわかりました。

アンデス文明の特徴として特に大きいのが、
「彼らが文字を持たなかった」という点です。

僕たち現代人は文字に依存しており、
情報を得るにしてもコミュニケーションを図るにしても
文字(言語を含む)に頼ってしまいますが、
古代アンデス文明では「図像」が重要視されており、
図像で表現されるイメージや人々の記憶が大切にされました。
古代アンデス文明の中であれば、
異なる文化間でも交易などが可能であった理由も
ここにあると思います。

異なる文化の間に共通の言語はなかったものの、
ジャガーなどの共通のモチーフがあり、共通の神話があったために、
ある程度のコミュニケーションが可能だったのです。

僕が今回の展示で興味をもったのは、
モチェ文化とナスカ文化です。

『チャビンの考古遺跡』が世界遺産にもなっている
紀元前1300年頃のチャビン文化が数百年にわたり
地域一帯に影響力を持っていましたが、
そのチャビン文化が突然勢いを失った後、
同時期にペルー北部のモチェ文化と南部のナスカ文化が興ります。

この2つの文化が、同時代でありながら全然違うのです。
ナスカ文化の出土品はカラフルで、13色もの色が使われています。
一方で、モチェ文化の出土品は、たったの2色。

しかし、モチェ文化は立体的でユーモラスですらあるのに対し、
ナスカ文化は平面的で、図像のデフォルメは現代のイラストに通じる気もします。

ナスカに対してモチェは、
色ではなく立体で表現する文化であったことがわかります。
一方の、平面的な表現であったナスカはやがて、
有名な世界遺産『ナスカとパルパの地上絵』を残すこととなります。
地上絵も平面的な表現であることを考えると面白いです。
……カラフルではありませんが。

このように、「古代アンデス文明」であっても
多様な文化・文明が生まれた背景には、
アンデス地方の自然環境の多様さがあります。

『古代アンデス文明展』の監修のひとりである
南イリノイ大学の島田泉教授によると、
世界に32の気候帯と103の生態系があるうちの
28の気候帯と84の生態系がアンデス地域にあるそうです。

根底にアンデス文明の共通項がありながら、
自然環境に合わせてさまざまな文化が興る姿は、
世界の文化の縮図のようです。

古代アンデス文明の集大成であったインカ帝国が
スペインのコンキスタドールの前に滅び、
古代アンデス文明も終焉を迎えました。

その後、険しく多様な自然環境のために鉄道などが発達せず、
植民地化の進行の違いなどもあって、
南米には北米のような統一の「国家」は誕生しませんでした。

古代アンデス文明は、文字を持たなかっただけでなく、
インカ帝国がコンキスタドールによって徹底的に破壊されたことにより、
今でも多くの謎に包まれています。
今回の『古代アンデス文明展』では、
その謎を少し解き明かしてくれた気がします。
あくまで僕の中での「謎(知らなかったコト)」ですが。

ぜひ『古代アンデス文明展』に足を運んで、
その多様性を感じてみてください。
観れば観るほど、もっと知りたくなります。
ほんと見応えありますから。

■ 古代アンデス文明展
□ 国立科学博物館
  東京都台東区上野公園7-20
□ 2017年10月21日(土)~2018年2月18日(日)
□ 9時~17時
http://andes2017-2019.main.jp/andes_web/top/index4.html


表情がかわいらしい未焼成の男性像(カラル文化)


世界でも珍しい、首を切り落とし神に捧げる最中の男性像(チャビン文化)


トウモロコシの姿をした神(モチェ文化)


ジャガーが後ろから覗いている鐙型注口土器(モチェ文化)


現代でもありそうなデザインの小皿(ナスカ文化)