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■ 研究員ブログ141 ■ 今週末にも出るか「登録」勧告:長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産

ゴールデンウィークが近づいてきましたね。
皆さん、旅行計画などを立てて、わくわくしているのではないでしょうか。

僕はこの時期、世界遺産を目指す遺産への、諮問機関の勧告が出るので、
勧告内容がどうなるか、どきどきしています。
毎年言っている気がしますが、ゴールデンウィークといえば勧告なのです。

今年は、バーレーン王国のマナーマで
6月24日から第42回世界遺産委員会が開催されます。

その世界遺産委員会での世界遺産登録を目指し
日本から推薦されている遺産が2件あります。

文化遺産の「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」と
自然遺産の「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」です。

これらの遺産への諮問機関からの勧告は、
世界遺産委員会が始まる6週間前までに出されるので、
今年の場合は、5月13日(日)までに出されます。

実際は、ぎりぎりに出されることは稀ですので、
早ければ今週4月末か、遅くとも5月初旬には
出るのではないかと思っています。

◆ 苦労の連続だった潜伏キリシタン関連遺産

まず、遺産価値と同じように、苦難の道を歩んできたのが
長崎県と熊本県に点在する12資産で構成される
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」です。

2007年に暫定リストに記載されたこの遺産は、
2013年にようやく文化庁文化審議会で推薦候補に選ばれます。
しかし、それまで文化審議会で選ばれた遺産がそのまま推薦されていたのに、
このときだけは内閣官房の有識者会議が推薦候補に選んだ
「明治日本の産業革命遺産」が最終的に推薦されました。

後にも先にも、文化審議会で推薦候補になった遺産が推薦されなかったのは、
潜伏キリシタン関連遺産だけです。

翌年、ようやく正式な推薦遺産となり、
2015年1月末に推薦書が提出されます。
しかし、2015年9月末の諮問機関イコモスの現地調査を経て出されたのは、
遺産価値の証明が不十分である、との指摘でした。
そこで、2016年2月、イコモスからの勧告が出される前に、
推薦書が取り下げられ、推薦内容の練り直しが行われます。

その時に長崎県が活用したのが、
世界遺産委員会で新たな取組みとして始まった、
イコモスとのアドヴァイザー契約でした。

勧告を出す団体の助言の下、推薦書を作成することには
賛否さまざまな意見があります。
しかし、これまでは勧告が出されるまで、
推薦書にどこか問題があるのか、
その問題点は解消可能であるのか、
問題点に対する反論は可能なのか、などといったことが不明で、
諮問機関と推薦国の間での軋轢なども存在していました。

世界遺産委員会で諮問機関の勧告が覆される背景にも
諮問機関と推薦国との間の意見交換の場が少なく、
遺産価値の認識に齟齬があったということもありました。

その点、今回のアドヴァイザー契約では、
その辺りでの意見交換がしっかり行われ、
技術的にも有用な意見がもらえたようなのでよかったと思います。

今回、僕は「登録」勧告が出されるのではないかと思っているのですが、
(この遺産についてはいつも評価が甘くてすみません!)
その理由のひとつにこのアドヴァイザー契約があります。

遺産の価値については、勧告が出されたところで書こうと思いますが、
アドヴァイザー契約によって遺産価値が修正され、
構成資産全体でつくる遺産価値がより明確になったと思います。

また、今回のアドヴァイザー契約は、
世界遺産委員会にとってもイコモスにとっても新たな挑戦です。
イコモスのアドヴァイスに基づき推薦書を作ったのに、
その内容が否定されるということは考えにくいのです。
もしそうなった場合、イコモスのアドヴァイスが
不的確であったということを意味し、
イコモスにとって大きなマイナスです。

これは、イコモスがアドヴァイスした推薦書だから、
イコモスが無条件に認める、ということではありません。
イコモスのアドヴァイザーは、イコモスのプライドにかけて
推薦書の作成に助言しただろう、ということです。

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に
「登録」勧告が出されるだろうと、僕は思っています。

◆ 不明なところが多い自然遺産

一方で、よくわからないところが多いのが、
「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」です。

以前、「研究員ブログ112」でも書きましたが、
この遺産は、通常の日本からの推薦プロセスと異なり、
推薦書提出期限の2週間前にようやく推薦が決まりました。
例外的な動きをしたわけです。

通常、推薦が決まってから推薦書を最終的に調整し、
約半年後にユネスコの世界遺産センターへ提出します。
それが、この奄美大島から西表島までの自然遺産では、
たった2週間で推薦書が提出されます。

もちろん、自然遺産は、
日本国内に推薦で競合する遺産がないため、
推薦されることが前提で準備していた、ということは考えられます。
しかし、推薦書提出後に国立公園指定されたり、
推薦書提出までに住民説明会が充分に行われていないことなど、
準備が充分であったという点でも疑問です。

先日、西表島の住民の約4割が
世界遺産登録に賛同していないという報道がありました。
西表島では、「推薦書提出から半年後」に初めて住民説明会が行われ、
議事録を見ていると、世界遺産の登録範囲になっていることを地権者も知らなかった
というような所もあったみたいなので、
充分に議論して準備したとは言いがたい気がします。

別にこの遺産の登録に反対しているわけでも
登録活動に水を差そうとしているわけでもなく、
本当によく分からないのです。すみません。

これまで、どちらの遺産もあまり情報が出てきていませんが、
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」については
今週末には勧告が出るのでは?と、僕は思っています。
皆さんもぜひ注目してみてくださいね。

<関連記事>
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