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■ 研究員ブログ147 ■ 祝・世界遺産:長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産<下>今後の課題

世界遺産登録後の課題はいくつもありますが、
今回の『潜伏キリシタン関連遺産』で最も懸念されるのは、人口減少の問題です。
五島列島の離島では特に高齢化と人口減少が続いており、
今後どのように遺産や伝統を守り伝えてゆくのか、その将来性が不安視されています。

世界遺産登録をされる場所で、伝統的な街並が残されているところの多くは、
言い方が悪いですが、近代の開発から取り残されてきたところです。
開発されなかったがゆえに古い街並が残りました。
潜伏キリシタン関連遺産では、それに加えて、
潜伏キリシタンたちが隠れて暮らした場所が、
人が住みにくく、人が訪れにくい場所であったということもあります。

また、潜伏キリシタンというのは「守りの信仰」ともいえます。
つまり、積極的に布教をして信者を増やすということをしません。
そのため、潜伏時代の信仰を受け継ぐ「かくれキリシタン」たちは布教を行うことなく、
人口減少などで共同体が廃れ後継者がいなければ、
かくれキリシタンの信仰も終わる可能性が充分にあります。
カトリックに復帰した集落とて人口減少の前では信者を広げることが難しいです。

世界遺産登録が、こうした人口減少に力を発揮するかといえば、
直接的には無理でしょう。
消え行く文化をある程度は覚悟しないといけないかもしれません。

しかし、世界遺産になった以上、
私たち日本人が自分の国の遺産として守り、
世界中の人々が自分たちの遺産として守っていく必要があります。

そこでやはり重要になるのは、
「集落の価値」を学ぶ教育だと思っています。

人口減少や住民の流出が避けがたいのであれば、
少しでも地元の「集落」や「文化財」に関心をもってもらい、
それを自分の誇りにしてもらう、ということが大切です。
東京に暮らしていても故郷の文化や歴史、伝統を
自分のルーツとして誇りに思う、ということは、
遺産を守っていく上で何より重要だと思います。
それが実際の行動の核となるエネルギーとなるのです。

遺産価値を知る教育の重要性は、
観光として訪れる僕たちにもいえます。
世界遺産は、よその人々の遺産ではありません。

今年の3月末、外海の出津と大野に行ってきました。
他に観光客はおらず、教会守の方からゆっくりとお話を伺うことができました。
今回の遺産は、生活に結び付く遺産の中でも、
信仰という心の内面と深く関係するものです。
ぜひとも、「そういう場」を訪れている、ということを、
観光する方は常に頭に入れておいてもらいたいですね。
私たちの遺産なのですから。

<上>潜伏キリシタンの時代を証明する遺産
<中>カトリックとプロテスタントの対立