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2012.05.08放送 『マイスターが語る世界遺産~極地の世界遺産~ Vol.2』

5月8日(火)
『シュトルーヴェの測地弧』
:ノルウェー・スウェーデン・フィンランド・ロシア連邦・エストニア・ラトビア・リトアニア
ベラルーシ・ウクライナ・モルドバの10カ国/文化遺産/(ⅱ),(ⅲ),(ⅵ)/2005年登録

本日の世界遺産は「地球の大きさと形を知りたかった男の世界遺産」と言い換えても良いかもしれません。

地球一周は40,000kmと知られていますが、この数値、ずいぶんキリの良い数字に思いませんか?
実は、地球の大きさを測定して、その4,000万分の1を1mと後で決めたからなのです。
そもそも地球の大きさを測定しようと試み始めたのは、革命最中の1792年のフランスでした。
6年の歳月をかけて、ドーヴァー海峡に面するダンケルクから、スペインのバルセロナまでの距離を
天体の位置から測量して、北半球の北極点から赤道までの角度から距離を割り出し、
地球一周の4分の1に相当する1,000万分の1を1mと定めたのです。

さて、フランスで1mの基になる“メートル原器”が作られたちょうど同じ頃、
偶然にも東洋と西洋で、地球の大きさを正確に測ることに一生を捧げた2人の人物がいました。

地球の正確な距離を割り出すには、短い距離の測量だけでは誤差が大きく生じてしまいますので、
可能な限り長い距離を、それも正確に測る必要性がありました。
交通手段も発達していない、また、測量技術も確立しない時代でしたから、
彼らにとっては至難の技。まさに冒険そのものであったことでしょう。

2人のうちのひとりは、1800年~1816年まで足かけ17年かけて、
日本中を歩いて測り続け、『大日本沿海輿地全図』を完成させた、伊能忠敬です。
一方、伊能忠敬が測量を終えた年に測量を始めた人物が、
ドイツ出身のロシア人天文学者シュトルーヴェです。

シュトルーヴェは、1816年から1855年まで約40年の歳月をかけて、
ノルウェー北端のハンメルフェストから黒海までの2,820kmを測量しました。
これだけの長距離をほぼ同一の経線上で観測したのは史上初めての試みで、その観測点は265カ所に及んでいます。
そのうち34カ所が世界遺産に登録され、その全てをひとまとめにして、『シュトルーヴェの測地弧』と呼ばれています。
『シュトルーヴェの測地弧』の登録範囲は、スウェーデンやフィンランドなど10カ国を数え、
世界最多のトランス・バウンダリーサイト(共通する物件が国境を越えて登録されている物件)でもあります。

興味深いのは、今ならば国境を越えて測量するのは相当な困難を伴いますが、
シュトルーヴェが生きていた19世紀初頭は、弱肉強食の帝国主義の時代でしたので、
当時の国境区分は、スウェーデン王国とロシア帝国の2カ国のみでした。

文化遺産には歴史的建造物が多く登録されていますので、『シュトルーヴェの測地弧』はとてもユニークな物件です。
測量地点の北端と南端の地には、彼の測量事業の完成を祝した記念碑が建てられ、
観測天文台や教会も、すべて含まれて世界遺産として登録されていますが、
実際に訪れてみると、自然に置かれた岩や、石に印を付け人工的に作られた基準点であったりします。

結果として、シュトルーヴェの調査は、地球の大きさや形状を明らかにする上で重要な一歩となり、
後の地球科学の発展に大きな影響を与えた、ということで、2005年に世界文化遺産として登録されました。

シュトルーヴェも伊能忠敬も、2人とも地球の大きさを殆ど誤差なく計算することに成功しています。
今から200年前当時の観測技術を考えれば、まさに偉業であり、
『シュトルーヴェの測地弧』は男の夢を実現した証の世界遺産と言っても、過言ではないでしょう。

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