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● マイスターのささやき:GW関西世界遺産紀行 ~マイスターが限界にチャレンジ・7日でいくつ回れるか!?~その③

世界遺産検定マイスター 本田陽子

◆ 京都で日本の美について考えた

高野山の次の日、わたしは京都にいました。
やはり世界遺産である西本願寺に来ています。
西本願寺は、親鸞が開いた浄土真宗本願寺派の本山です。
予習すると、桃山時代から江戸時代初期にかけての名建築の宝庫、とあります。
書院や、飛雲閣と呼ばれる楼閣建築が「宝庫」のキモの部分のようですが、普段非公開となっています。
GW前にダメもとでお寺に電話してみたところ、なぜかあっさり解説付きの拝観の予約がとれてしまいました。

ガイドさんが、書院の中の一つ一つのふすま絵や欄干の彫刻物、建築上のねらいなどを丁寧に解説してくれます。
ちょっとだけ披露しますね。

「雁の間」という部屋があるんですが、隣室との境の欄干には雁の透かし彫りが。
その雁は、月の前を飛んでいます。
すなわち、月は、隣室の壁に描かれた月であり、雁の間から見て初めて「彫刻の雁と絵に描かれた月」のセットが完成するってことなんですよ!!
(欄干越しじゃなく、直接月をみたらどうなってるかってのは、ナイショです)

うーん、うまく伝わらなかったら申し訳ない。これが遊びというものなのか、来客へのおもてなしの表れなのか、その辺はわたしの研究不足でよくわからないんですが、ともかく、解説の一つ一つが、おおおーーーっというほどの面白さ。

いままで、日本の建築が面白いということを全く知りませんでした。
そして、翌日に訪問した銀閣寺で決定的にノックアウトされるのです。

銀閣寺は、もう説明するまでもないかもしれませんが、わたしなりに噛み砕いてみると
「足利義政が、世の中がいやになって引きこもって文化活動にのめりこんだところ」です。
GWは特別拝観を実施しているので、まさに彼が「引きこもって」いた空間に入ることができます。

「同仁斎」と呼ばれる義政の書斎だった四畳半の質素な部屋で、ガイドさんの説明に聞き入っていたときのこと。
ガイドさんが付書院の障子をすっと30センチほど開けてくれました。
掛け軸のような細長い隙間の向こうに、初夏の紅葉が。

「おおっ」

そこにいた全員が息を呑んだと思います。
その瞬間、わたしの中で、なにかがパチーンとはじけたような気がしました。

ふと思い出した、グラナダのアルハンブラ宮殿。
無骨な寂しさを思い起こさせる赤い外壁からは想像もつかないような、緻密な内装。
天井、壁、柱と隙間なくびっしりとうめつくされた、半ば執着的なまでの細工(天井なんて蜂の巣みたい・・・)に囲まれて、
レコンキスタの波を受けていた当時のイスラム王は、この空間でいったいなにを思い描いていたんでしょうか。
周囲の喧騒をよそに、ここに引きこもって美に守られることだけが彼に安らぎを与えていたのかも。

片や銀閣寺。
応仁の乱でほとほと争いに嫌気がさした義政は、このわずか四畳半の空間の中に自分が理想とする美を封じ込めました。
前述の庭の景色が掛け軸に見える長窓しかり。棚には、愛着のある、厳選された小道具だけを並べていたんでしょう。

両者の美の表現の方向性は真逆といってもいいでしょう。
ですが、時の権力者が自分を取り戻すことのできた空間が、美意識で満たされた場所であったということにおいては一致しているのかもしれませんし、もしかすると社会や国政が混乱するほどに、権力者を取り巻く美が覚醒し研ぎ澄まされた、と感じるのは考えすぎでしょうか。
そうするとヴェルサイユ宮殿の頽廃美も納得がいくんだよなあ。。

もちろん、ここに書いたことはわたしの個人的見解です。
なにかの拍子に、脳内で世界遺産がパズルのようにピタピタはまることがあるんですが、京都でいいピースを拾いました。

・・・なんつって。

俄然、日本の美が面白くなってきました。そういう意味で、二条城も面白かったなあ。
参上した大名の身分の違いによって、通される部屋のつくりやふすま絵がガラッとかわるんですもん。
外様大名が将軍に謁見するのは入り口近くの部屋で、ふすま絵も松。ははーーー将軍様、って気にもなるわなあ。
ふすま絵って、権威を表すための装置、ってことなのかな。
いままで美術館で見ててもわかんなかったなあ・・・。

そんなことを鴨川のほとりで風に吹かれながら、あるいは町家を改装した粋なカフェでぼけっと考える・・・

時間などないんです。うっうっうっ。
世界遺産⇒バス⇒世界遺産⇒バス、をひたすら繰り返すばかり。
オノレが考えたプランなので誰に文句をいうこともできませんが、おしゃれカフェをうらめしく横目に見ながら、
世界遺産行脚を続けるのでした。

◆ 踊る仏像

京都では3日滞在して、1日4~5箇所の世界遺産訪問を目標にしていました。
そして3日目に追い込みモードで訪れた宇治の平等院。お昼ごろ宇治についたんですが、ここには平等院含め2箇所の世界遺産があります。
2時間ちょいで宇治が終われば、もう1箇所世界遺産に行くことも可能です。(秀吉の花見で有名な醍醐寺を狙ってました)

ちなみに、10円玉に描いてあるのは境内の中核をなす鳳凰堂です。
鳳凰堂に入るには、平等院入場後にさらにチケットを購入します。

・・・げっ・・・

渡されたチケットには、2時間後の時間が書いてありました。
時間制限・・・。
たしかにGWの京都は、かなりの混雑ぶりでした。銀閣の特別拝観も1時間待たされたんだった・・・。

鳳凰堂を諦めれば、別の世界遺産に行けますが、しかしこんなに美しい建物を前にして退散ってのもシャクです。
まーなんというか、とても幻想的な建物ですよね。なにせ平安末法の世に、極楽を生み出さんと作られたんですから。

結局、「あと一箇所」を諦めて、平等院の中をゆっくり回ることにしました。

ところで、この旅に出るまで、仏教美術というものにもほとんど興味がなかったのですが、国宝級の仏像をうじゃうじゃ見ることに
なるので、そこそこ予習してきました。如来とは、とか観音とは、というごく初歩レベルです。
ですから、日本仏教史に燦然と輝くメジャー仏像よりも、ちょっと顔がゆるんでしまうような仏像についつい目が行ってしまうのですが、すごくゆるんだ仏像が平等院のミュージアムにありました。
このミュージアムがまたサイバー風で、おお、寺もこういうことをやる時代なのだなあ、と思わずにはいられないんですが、
圧巻なのは、雲に乗ったいくつもの仏像で1部屋まるごとうめつくされた「雲中供養菩薩(うんちゅうくようぼさつ)」ルーム!

本来は、鳳凰堂に安置された阿弥陀如来を取り囲むように、52体の菩薩像が鳳凰堂の壁にくっつけられてたのですが、
その半分がミュージアムに移されました。
たくさんの小ぶりな菩薩が壁一面をふわふわと舞いながら、あるものは音楽を奏で、あるものは踊っています。
その中でもわたしのお気に入りは、北26号。(それぞれに北○号、とか南○号、と名前がついてます。名前といっていいのかな)
太鼓を叩こうとしてるんですけど、音がぽんぽこ聞こえてきそうです。
美術館内は撮影不可なので、お見せできなくて残念です。
訪問された方がいたら、あなたのお気に入りを教えてください。

ああペットでほしい。ペットなんてのは菩薩様に失礼か。家に帰っていくつかがふわふわ漂ってたら
(さすがに52体は多すぎる)、絶対絶対なごみます。
きっと阿弥陀如来さんも、そうして癒されたに違いない。
こんなわたしのツボにもっともガツンとはまった仏像と奈良で出会う事になりますが、それはまた別の回で。

で、結局京都に3日間いて、世界遺産を何箇所まわったかって?

あと、パワスポは行ったのかって?

前回話した空海の「立体曼荼羅」はどうなったのかって?

次回は、京都の世界遺産の見所と合わせてその辺を解説します!(わたしの記憶が持てばたぶん・・・)

(今回は写真はなしです!特別拝観は写真不可だし、なんとなく気分的に写真なしでいってみようかと)

つづく