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2010年 新規登録物件紹介 ①

2010年に新しく世界遺産登録された21物件のうち、
まず7物件を紹介します。
■ パパハナウモクアケア(アメリカ合衆国)
パパハナウモクアケアは、ハワイ諸島の北西250kmから、およそ1931kmという広大な線上の範囲に連なる小島と環礁の集合体である。この一帯は、ネイティブ・ハワイアンの伝統文化の根源と深淵にせまる重要な場所である。それは、彼らが先祖代々受け継いできた環境であり、人間と自然の共生という生き方を具象化できる場所であるからだ。さらには、この一帯は、生命発祥の地であり、死後、魂が帰る故郷と考えられている。“ニホア”と“マクマナマナ”という二つの島には、考古学的にも重要な西欧化される前の定住地跡が残る。多くの遺跡は、孤立した大海原、そして深海域における生活環境に対応している。それは、海底火山を含む海山(海面下にありながら高さ1000m以上の山)と浅瀬=サンゴ礁と礁湖(ラグーン)、という周辺環境に対応したものである。そして、この周辺環境は、自然遺産としての価値も高く、地球最大規模の海洋保全地域の一つとなっている。
PapahanaumokuakeaはPapahanaumokuとWakea,つまり、ハワイ神話に登場する天地創造の女神パパハナウモクと、彼女の夫であるワケアに由来する。

英 語 名:Papahānaumokuākea
仏 語 名:Papahānaumokuākea
登録基準:(iii)(vi)(viii)(ix)(x)

■ オーストラリアの囚人関連遺跡群(オーストラリア連邦)
この物件は、18~19世紀、大英帝国によりオーストラリアの地に造られた1000以上の収容施設と11の刑場で構成されている。これらは主に、シドニー周辺とタスマニア、具体的にはノーフォーク島とフリマントルにあり、オーストラリアの先住民が大変な苦労のもと、肥沃な土地に育てあげた海岸線に位置する。イギリスは、裁判によって囚人植民地(流刑の島)送りが決まった、男女子供を問わない何万人にも及ぶ死刑囚のために収容施設を造った。それぞれの遺跡からは、特異な目的が読み取れる。それは、懲罰と更生という名のもと、強制労働による植民地整備が行われていた事である。この物件は、西欧列強による大規模な囚人流刑と、その囚人労働力を使った植民地拡大政策を今に伝える最大の例証と言える。

英 語 名:Australian Convict Sites
仏 語 名:Sites de bagnes australiens
登録基準:(iv)(vi)

■ カミノ・レアル・デ・ティエラ・アデントロ-メキシコ内陸部の王の道(メキシコ合衆国)
「カミノ・レアル・デ・ティエラ・アデントロ」はメキシコ内陸部の王の道であり、銀の輸送ルートとして知られている。今回登録された物件は、全長2600km、メキシコシティー北部からアメリカのテキサスとニューメキシコに続く道のうち、1400kmに及ぶ区間にある55の遺跡と、5件の世界遺産登録物件で構成されている。このルートは、16世紀中頃から19世紀にかけて、およそ300年間活用された交易の道で、主には、サカテカス、グアナフアト、サン・ルイス・ポトシ等の銀山から産出された銀の輸送路であり、ヨーロッパから輸入された水銀の輸送路でもあった。そして、この道は、スペインとネイティヴ・アメリカン(Amerindian)の文化、伝統の融合という類い稀な社会の創造を、鉱業の発展により強固なものにした証しでもある。

英 語 名:Camino Real de Tierra Adentro
仏 語 名:Camino Real de Tierra Adentro
登録基準:(ii)(iv)

■ オアハカの中部渓谷にあるヤグルとミトラの先史洞窟(メキシコ合衆国)
この物件は、メキシコ、オアハカ州中央部にあるトラコルア渓谷の北側斜面に位置し、2件のスペイン占領以前の考古学的価値を有する建造物群、そして先史時代の洞窟と岩穴式住居で構成されている。岩穴式住居のうちのいくつかからは、遊牧狩猟民族から農耕民族に移行していく過程を表す岩絵等の考古学的資料も見つかっている。“グイラ・キュイズ”という洞窟からは、1万年前のウリ科の植物の種が発見されており、これは、北米大陸における最古の植物栽培の証拠である。また、同じ洞窟かは、トウモロコシの穂軸も発見されており、こちらは、最古のトウモロコシ栽培の証拠となる。ヤグルとミトラの先史洞窟の文化的景観は、人と自然の共生を表し、北米大陸の植物栽培の歴史とメソアメリカ文明の夜明けの時代を今に伝える。

英 語 名:Prehistoric caves of Yagul and Mitla in the Central Valley of Oaxaca
仏 語 名:Grottes préhistoriques de Yagul et Mitla au centre de la vallée d’Oaxaca
登録基準:(iii)

■ ディライーヤのツライフ地方(サウジアラビア王国)
この物件は、第一次サウード王国最初の首都であり、アラビア半島の中央、リヤドの北西に位置する。ここでは、15世紀に起源を持つアラビア半島中央部独自の建築様式、ナジャディ様式を確認する事ができる。18世紀、そして19世紀のはじめ、サウード家の政治的、宗教的役割が増大していくとともに、ツライフ地方のシタデルは、時の権力の中心地、そしてワッハーブ派の純化主義的イスラム改革運動拡大の拠点となっていった。この物件には、数多くの王宮遺跡、そして、ディライーヤ・オアシスのほとりに建てられたオアシス都市も含まれている。

英 語 名:At Turaif District in ad-Dir’iyah
仏 語 名:At-Turaif à ad-Dir’iyah
登録基準:(iv)(v)(vi)

■ ハノイ-昇龍(タン・ロン)皇城遺跡の中心地(ベトナム社会主義共和国)
タン・ロン(現ハノイ)皇城は、11世紀にベトナム李王朝により建設された。大越(だいえつーダイベト=1054~1804のベトナムの正式国名)独立の証しである。この物件は、7世紀にまで遡る中国の大要塞遺跡の上に建設され、その場所は、ハノイの紅河デルタを埋め立てた干拓地にあった。ここは、1300年間、絶えることなく、この地の政治の中心地であり続けた。18番ホアンジウ発掘現場にある皇城の建物や遺跡からは、紅河下流域一帯特有の東南アジア文化の影響が確認できる。それは、北からの中国文化と南からのチャンパ王国文化が融合した文化と言える。

英 語 名:Central Sector of the Imperial Citadel of Thang Long – Hanoi
仏 語 名:La cité impériale de Thang Long-Hanoi
登録基準:(ii)(iii)(vi)

■ スリランカ中央高地(スリランカ民主社会主義共和国)
スリランカ中央高地は、島の南中央部に位置する。この物件は、ホートン・プレインズ国立公園とナックルズ森林保護区からなるピーク・ウイルダネス保護区で構成されている。海抜2,500mに拡がるこの山岳森林帯は、大変多くの動植物にとって大切な棲み家となっている。そこには、western-purple-faced langur(オナガザルの一種でスリランカの固有種)、Horton Plains slenderloris(スリランカの雨林帯に生息するホソロリス科=曲鼻猿亜目科の一つの希少種)、スリランカヒョウ(スリランカのみに生息するヒョウの亜種)などの絶滅危惧種も含まれており、この一帯は、生物多様性を代表するホットスポットとして大変重要である。

英 語 名:The Central Highlands of Sri Lanka
仏 語 名:Les Hauts plateaux du centre de Sri Lanka
登録基準:(ix)(x)

※この文章は、UNESCOホームページに掲載されているニュースをもとに執筆・編集しています。

https://whc.unesco.org/en/newproperties/(英語) https://whc.unesco.org/fr/nouveauxbiens/(仏語)

※UNESCOのニュースだけでなく、物件を保有する国や地方自治体など、現地の組織が提供する情報を解説文中に加えているものもあります。

※新規登録物件および範囲拡張物件の遺産名はまだ正式決定のものではなく、その日本語訳も世界遺産アカデミーが独自につけたものであり、今後変更の場合があります。

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