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■ 研究員ブログ② ■ 科学の子 あるいは 米を一粒

熊野の山道を歩いていると突然、体がずっしりと重くなり、
頭がくらくらして歩けなくなることがあります。

妖怪「ダル」に取り憑かれたのです。

ダルは、かつて熊野の山で行き倒れた人々が
悪霊になったものだと考えられてきました。
特に空腹の時に憑かれやすいため、
憑かれたら米を一粒でも食べるとダルが退く、
と言い伝えられてきました。
昔の人は、山へ行って弁当を食べる時には米粒を一粒残しておき、
米粒がなければ、手のひらに指で『米』の字を書いてなめたそうです。
民俗学者の南方熊楠も、自らのダル体験を書き残しています。

しかし、そんな妖怪が住みにくくなったのが現代です。

鉄腕アトムじゃないけど、僕たちみんな科学の子。
蛍光灯で街の隅々まで照らして、妖怪を追い出してしまったのです。

妖怪「ダル」だって例外じゃありません。
山道での急な体調の悪化は、今ではガス中毒だと考えられています。
落ち葉などの有機物が腐食すると、二酸化炭素が発生します。
普通は風に吹かれて薄まりますが、
窪地などで二酸化炭素が発生すると広がらずそのまま一所に溜まります。

そこに人が入り込んで二酸化炭素を大量に吸い込むと、
心拍数が上がり、脱力感や意識障害などの中毒症状が表れるのです。
実際に熊野古道のある場所では、通常の20倍もの二酸化炭素濃度が計測されました。

科学的な説明なんて味気ないものです。

でも僕たちが信じて見ている世界は絶対なのでしょうか?
かつて天動説が覆されたように、地動説たる現代諸科学もいつか覆されるかもしれません。

世界遺産の熊野古道では、今でもダルが息を潜めてこちらを窺っているかもしれないのです。