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■ 研究員ブログ⑭ ■ ラジオの時間 と 魔法をかけられた街

僕は三谷幸喜の『ラジオの時間』という映画が大好きで、
何度観ても大笑いしているのですが、
そんな素人にはハードルの高いラジオに、
僕自身が出てしまいました。

今回は『要塞都市クエンカ』について、
電話で10分ほどお話させていただいたのですが、
『要塞都市クエンカ』は調べなおしてみると、なかなか面白い遺産です。

スペインのラ・マンチャ地方に位置するクエンカは、
9世紀にイスラームの王朝である後ウマイヤ朝によって築かれた都市です。

ここがキリスト教徒の手に戻るのは、
カスティリャ王アルフォンソ8世によるレコンキスタが行われた1177年でした。

この『要塞都市クエンカ』に認められた登録基準が、
この街のふたつの特徴をよく顕しています。
ひとつは「ある文化を代表する伝統的集落や土地・海上利用の顕著な見本」である登録基準(v)、
もうひとつは「世界の文化圏内での価値観の交流」を示す登録基準(ii)です。

ひとつ目の土地利用ですが、
クエンカは要塞として標高約900mの断崖の上に築かれ、
その後の人口増加と共に様々な建造物が所狭しと建て増しされていったため、
下から見上げると頂の上に街が張り付いているように、
まるで街が宙に浮かんでいるように見えます。
これが「魔法をかけられた街」と呼ばれる所以でもあります。

一方の価値観の交流は、イベリア半島全体の特徴ともいえます。

現在のクエンカは、
イエス・キリストの復活を祝うパスクワ(復活祭)や、
それに先立つセマーナ・サンタ(聖週間)で、
スペイン有数の盛り上がりを見せ、「キリスト教の宗教都市」として有名ですが、
他のスペインの都市と同様、クエンカも300年近くイスラーム文化圏であったため、
街にはイスラームの文化がよく残っています。

大モスク跡に建てられたゴシック様式の大聖堂は、
内部にイスラームの装飾様式の影響を受けたプラテレスコ(銀細工)様式が使われ、
サン・ミゲル聖堂にも、レコンキスタ後もキリスト教圏に残った
イスラーム(ムデハル)の様式であるムデハル様式が使われ、
また、グラナダのアルハンブラ宮殿にも使われているタイルが、
イスラーム由来のタイルを変化させた「クエンカ・タイル」であるなど、
キリスト教文化とイスラーム文化がよく混ざり合っているのです。

これはキリスト教徒がイスラームの文化を柔軟に受け入れた、
というコトではなく、
「イスラームの文化が人々の間に浸透していた」という点と、
「イスラームの建築や科学、学問、医学など、どれをとっても、
中世のキリスト教文化のはるか先をいっていた」
という点が考えられます。

「不寛容」というより「他者に無関心」というのが、
中世から啓蒙思想の時代過ぎまでの
キリスト教文化圏に対する個人的な印象なのですが、
このイベリア半島では、キリスト教文化とイスラーム文化の
共存というのが魅力になっています。

パスクワは「春分の日の後の、最初の満月の次に来る日曜日」
という、毎年日にちが変わる祭日です。
今年2011年のパスクワは、4月24日(日)。
クエンカ最大のキリスト教のお祭りを、
仄かにイスラームの文化の香りのする街で観る、
というのも素敵ですよね。

今回のラジオ出演は、
毎週出演している目黒主任研究員の代理だったのですが、
電話でのラジオ出演って難しい。

パーソナリティの表情も場の雰囲気も判らないから、
どのタイミングでどこまで話していいのやら、
探り探りになってしまいます。

もうなんだか全然うまくいかなくって
電話を切ってからため息しか出ませんでした。

目黒さんは今、豪華クルーズ船で世界遺産講義をする、
という仕事で東南アジアを回っています。

次はそちらの仕事の方を代理で引き受けますよ、目黒さん。