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■ 研究員ブログ⑳ ■ 英国王室と登録基準

日本でゴールデン・ウィークの初日にあたる4月29日。
英国ではウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式が行われました。

僕はニュースで少し見ることができただけなのですが、
一国の王室の結婚式が世界的に生放送され、
ニュースで何度も取り上げられるなんて、
やはり英国王室は、今でも世界的に「王室」の象徴的な存在なのでしょうね。
歴史上いろいろとあった英国王室が今でも続いているコトは、
すごいことだなぁと、ニュースを見ながら改めて思いました。
日本の皇室が続いているのとは意味合いがやはり違いますから。

ウィリアム王子とキャサリン妃が結婚式を挙げたウェストミンスター・アビーは、
『ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスタ・アビーとセント・マーガレット教会』
という名前で世界遺産登録されています。

英国の修道院の多くは、英国国教会を設立したヘンリ8世が
1540年に修道院解散法を定めたことにより解体させられてしまいますが、
ウェストミンスター・アビー(修道院)は、
王室との関わりが深いために解体を免れ、
1560年にはエリザベス1世によりアビー(修道院)の名前はそのまま、
聖堂参事会管轄の教会となりました。

ウェストミンスター・アビーは13世紀後半にヘンリ3世が、
フランスで流行していたゴシック様式を取り入れて改築し、
十字形を基本としながら、英国独自の回廊やチャプター・ハウス(総会会議場)を持つなど、
英仏ゴシック様式の特徴が混じりあった造りになっています。
また西正面塔などは18世紀にウェストミンスター宮殿と同じく
ゴシック・リバイバルで建てられました。

こうした英国中世建築の傑作とも呼ばれるウェストミンスタ・アビーや
ゴシック・リバイバルの傑作のひとつであるウェストミンスター宮殿に
認められている登録基準は(i)(ii)(iv)です。

「人類の創造的資質」を示す(i)と、
「建築様式や建築技術の発展」を示す(iv)は納得ですが、
「文化の価値観の交流」を示す(ii)は不思議な感じがします。
登録基準(ii)が認められている遺産は、
『法隆寺地域の仏教建造物群』や『イスタンブルの歴史地区』、
『文化交差路サマルカンド』など、
いかにも文化交流が行われていた遺産に認められており、
ウェストミンスター関連にはあまり「文化交流」というイメージはありません。

実はこれは登録基準の「内容の変化」と関係しています。

世界遺産の登録基準は、世界遺産登録の方針に沿って少しずつ変化しており、
登録基準の(ii)もかつては、今のような「相互交流」ではなく、
「一方向的に影響を与えた」という内容でした。
そのため、最高傑作としての登録基準(i)と共に用いられることが多く、
最高傑作が他に影響を与えると登録基準(ii)が含まれていたのです。

ウェストミンスター・アビーなども、英国中世建築の傑作として、
後続の教会建築などに大きな影響を与えたため、
登録基準の(ii)も認められました。

登録基準は「絶対」ではないのですね。
……英国王室と同じように。

今回のロイヤル・ウェディングを見て、
英国王室も階級間の壁を越えて新しい風を入れながら
変化しつつもしなやかに続いてゆくのだろうな、と思いました。

ウィリアム王子とキャサリン妃の
末永い幸せをお祈りしています。