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■ 研究員ブログ23 ■ どうなる!? 国立西洋美術館本館

昨年まで、上野の国立西洋美術館からさほど遠くないところに住んでいました。

国立西洋美術館自体には何度か訪れたことがありましたが、
世界遺産に関わる仕事を始めてからは一度だけ、
好きな画家のひとり、ヴィルヘルム・ハンマースホイの展覧会を観に
行ったことがあるだけです。

ル・コルビュジエの建築はフランスに住んでいた時に、
ロンシャンの礼拝堂やスイス学生会館、ユニテ・ダビタシオンを観たことがあり、
特に帆船のような「ロンシャンの礼拝堂」は、
小さな窓からはいる光が作り出す静かな内部空間だけでなく、
入り口前に猫が寝そべっていたコトが印象的で、
好きな礼拝堂のひとつでした。

「国立西洋美術館本館」はそれに比べると
僕の中での印象は、確かに薄かったのです。

今回、「国立西洋美術館本館」を含む
『ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-』が、
ICOMOS より「不記載」勧告を受けました。
これは「記載」「情報照会」「記載延期」「不記載」の四つの評価の中で最も厳しいものです。

フランスが主体になって申請をしているので大丈夫だろう、と
根拠のない観測を持っていた僕は、その知らせにびっくりしました。

ル・コルビュジエの建築作品はかつて、
2009年にセビーリャで開催された第33回世界遺産委員会で
「情報照会」決議が下されました。

今回、名称を『ル・コルビュジエの建築と都市計画』から
『ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-』に変更し、
構成資産も22資産から19資産へ絞っての再挑戦でした。
その結果が「不記載」勧告。

ICOMOS の勧告を見ると、ル・コルビュジエの19の構成資産からだけでは、
「近代建築運動」の顕著な普遍的意義を見出すのは難しい、
というのが「不記載」の骨子のようです。

確かに、ル・コルビュジエは近代建築国際会議( CIAM )のメンバーとして、
近代建築運動に大きな影響を与え、現在でも影響力があるといえますが、
今回の構成物件が、
「ル・コルビュジエが近代建築の発展に重大な影響を与えた」ことを証明するに足る
ラインナップだったのかというと、
すべての資産を見たわけではないですが、
ICOMOS の指摘どうりだったのかもしれません。

フランスは「トランス・バウンダリー」だけでなく、
「トランス・コンチネンタル(大陸横断)」の遺産として
登録することを目指していました。

ただそうした思い入れが強いがために、
資産の構成……もっと言えば、推薦書のストーリーが
二の次になってしまっていた気がします。

近代建築運動はミース・ファンデルローエやヴァルター・グロピウス、
ブルーノ・タウトなど、多くの建築家の影響の下で発展したことは、
説明するまでもないことです。
多様で複雑化する近代以降の世界で、
たったひとりの天才の下に運動が起こる、というのは
そうそうあることではありません。
絶対的な影響力を持つ政治家や思想家が出にくいのと同じです。

今回、「ル・コルビュジエ」という個人の名を冠した遺産を、
集団的な運動である「近代建築運動」への「顕著な貢献」というストーリーで語ることは
やはり無理があったのでしょう。
そうだとすると、推薦書の戦略ミスという気がします。

フランスはこのまま世界遺産委員会に向かうのか、
それとも推薦書を取り下げるのか、
今のところ情報がありません。

もし仮に、世界遺産委員会で「不記載」決議となったら、
世界遺産登録への再推薦はまず不可能です。

僕はそれを避けるために、今回は推薦書を取り下げ、
ICOMOS が個別での再推薦を勧告している
「サヴォア邸」や「ユニテ・ダビタシオン」、「ロンシャンの礼拝堂」などの
世界遺産登録を目指す方がよいと思います。

ただ、国立西洋美術館の世界遺産登録が駄目だったような報道をよく目にしますが、
まだ登録が駄目になったわけではありません。

世界遺産委員会でもしかすると、逆転「記載」決議になることも
ないとは言えません……まぁ、ない気はしますが。

しかし、前回の2009年の時もICOMOS が「記載延期」勧告だったの対し、
世界遺産委員会では「情報照会」決議だったので、
今回ももしかしたら一段階上の「記載延期」決議になって
首の皮一枚つながるかもしれません。
……それがいいのか悪いのかは解りませんが。

今後のフランスの動向を、世界遺産委員会が始まるまで見守りたいと思います。