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生涯教育の原点「足利學校」、日本に教育の世界遺産がなくて良いのでしょうか?

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(2014-12-15更新)

11月23日(金)に栃木県足利市にある史跡足利學校で『釋奠(せきてん)』が開催されました。
WHA準会員・谷口徹之さんからお寄せいただいた参加レポートをご紹介します。

生涯教育の原点「足利學校」、
日本に教育の世界遺産がなくて良いのでしょうか?

 栃木県足利市にある足利學校は、「日本最古の学校」、あるいは「日本最古の総合大學」とも称され、かつて「学校」と言えば足利學校を意味したほど、歴史深い学校です。生徒自体はいませんが、現在は小学生から年配者まで参加する各種の事業が運営され、地元の人々に根づいた歴史ある重要な行事も、そこで守られています。

 日本の近代以前の歴史において、思想面で「文明開化」の主導的役割を演じたのは6世紀に公伝した仏教ですが、儒学はそれより早い5世紀に伝来し、7世紀には隋や唐の法体系を模した律令制度が行われ、官僚養成の為の学制が制定されました。これによって、都には国の官僚養成の大学寮、地方ごとに国学が置かれ、その制度は12世紀半ばまで続いたと言われています。しかし、中世に入ると、鎌倉幕府と室町幕府は、みずから管理・運営する教育施設を創らず、教育は公家が行う私的な講筵(こうえん)や仏教の学問所である檀林・談林などで行われるようになりました。その国学が足利學校の母体となったという説もあります。(注1)

 先日、開催された釋奠は、孔子や一門を祀る儀式で、足利市は、その縁で、孔子の故郷である曲阜(きょくふ)の済寧(さいねん)市と1984年以来の友好都市となっています。釋奠をご存じない方に、ぜひお勧めします(無料ですが、人数制約より事前予約必要)。儀式そのものは2時間弱ですが、足利市の重要行事として、雅楽演奏等もあり、昔の優雅で厳かな雰囲気を味わえます。ただし、窓が開けっぱなしで暖房器具のない会場ですので、参加する際は防寒対応が必須です。使い捨てカイロを持参しましたが、手足先が冷たく凍え、昼に食べた熱いドリアの美味しかったこと……。

 さて、その足利學校は、世界遺産登録を目指しています。
 登録基準は、フランシスコ・ザビエルが「日本国中、最も大にして最も有名なる坂東の大学」と論じた史実から、(ⅱ)、および(ⅵ)でしょうか。栃木県在住の私は、ぜひとも応援したいところですが、マイスターの立場で評価すると、残念ながら、疑問符がつきます。というのも、国宝の文選(もんぜん、詩文集)等は残っていますが、世界に誇るべき固定資産がないのです。茨城県水戸市の偕楽園や、大分県日田市の私塾、咸宜園(かんぎえん)とセットでの暫定リスト入りを、無形文化遺産も視野に入れて、目指していますが、現時点では実現していません。既に儒教を代表する物件として、前述の聖地曲阜が『曲阜の孔廟、孔林、孔府』として世界遺産登録されている上に、儒教は中国と台湾間の政治対立に結びついた宗教であり、世界遺産の歴史レベルから見ても比較的新しい日本の近世幕藩政治頃の遺産を前面に押し立てているので、残念ながら、難しいと感じられます。また、足利學校の創設に関しても、前述の他、いくつかの諸説があり、いずれも確実な資料に支えられている訳ではないことも、世界遺産登録や暫定リスト入りを難しくしている一因かもしれません。

 世界遺産だけが良い訳ではありませんし、論理的に多少無理があるかとも思われますが、日本人の精神を育んできた教育資産群のひとつとして目指してもらいと思っています。主要先進国には、イギリスの『キューの立植物園』や、ドイツの『ベルリンのムゼウムスインゼル(博物館島)』といった、教育に関連する資産があります。これらに対抗して、日本最古の学校「足利學校」を、アジアの植物資産庫として誇れる「東大小石川植物園」などと合わせて、日本人の根源でもある謙虚さや、世界が認める「もったいない」精神を育んできた環境を象徴する資産群を構成して申請するのは、いかがでしょうか。
 現在の日本の教育現場に多くの課題があることは否めませんが、他国に比べたら、はるかに世界に誇れるものだと信じています。また、昔の日本人の良さが無くなりつつあるからこそ、遺産化する必要があるのかもしれません。アカデミーメンバーは海外経験の長い方も多々おられると思います。諸兄のお知恵や様々な意見をいただきたい所存であります。

谷口 徹之(WHA準会員・世界遺産検定マイスター)

(注1)参考文献:『足利學校-過去と現在』(學士會会報No.892 2012-Ⅰ、前田專學:足利學校・現庠主)

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