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モスタルの持続可能性

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(2014-12-15更新)

 11月10日(土)に都内の国連大学にて、世界遺産条約40周年記念シンポジウム
『世界遺産と平和、持続的可能性』が開催されました。
WHA準会員・宮本勇太さんからお寄せいただいた参加レポートをご紹介します。

モスタルの持続可能性


2012年11月、世界遺産条約40周年記念として国連大学で開催されたシンポジウム、『世界遺産と平和、持続可能性』に参加しました。前ユネスコ事務局長・松浦晃一郎氏の基調講演をはじめ、第一線で活躍されている専門家の方々から、直接最新事情を聴くことができるとあって、かねてより楽しみにしていました。UNESCO及びICCROM 文化遺産特別顧問である、ムニール・ブシュナキ(Mounir Bouchenaki)氏から、特別プロジェクトが推進されている、ボスニア・ヘルツェゴビナの「モスタル」の名が挙がった瞬間、2カ月前に訪れたその地の記憶が、ふと蘇ってきました。

               

クロアチアの世界遺産『スプリットのディオクレティアヌスの宮殿と歴史的建造物』からバスに揺られて約4時間。ボスニア・ヘルツェゴビナの国境を越え、山間を走り、モスタルに入ると、車窓からムスリムの墓地が目に飛び込んできました。弾痕がまだ生々しく残り、上層階部分が砲弾で大きく抉れたビルも、当時のままです。ネトレヴァ川が流れるモスタルは、もともとトルコ系の影響が残る東岸の旧市街とカトリック教徒クロアチア人の西欧建築物が残る西岸の新市街が広がる民族共存の土地でしたが、1991年から4年間続いたボスニア紛争の最中に、民族・宗教対立が深まり、ついには街の象徴であったスターリ・モスト(石橋)すらも砲撃によって破壊されてしまいました。その後、2004年にUNESCOと各国の支援により石橋は復元し、2005年に『モスタル旧市街の石橋と周辺(Old bridge area of the old city of Mostar)/登録基準(ⅳ)』として世界遺産登録されました。

チェックインしたホテルでは日本人の私が珍しいのか、オーナーから「どうしてモスタルに来ようと思ったのか」と訊かれました。(世界遺産公式ガイドで初めて知ってから)ぜひ自分の目で一度観てみたいと思ったこと、スターリ・モストで開催される飛び込み大会をテレビで観たことを伝えると、私が関心を持ってモスタルを訪問したことへの感謝の言葉と、運が良ければ観光客相手の飛び込みを見ることができると教えてくれました。

モスクに隣接する墓地にも足を運ぶと、やはり内戦で亡くなった方々の墓石(1993~94年建碑)が多く、痛ましい気持ちになりました。ところがオールドバザールへの階段を降りてみると、そこにはたくさんの観光客と土産店が建ち並び、拍子抜けしてしまうぐらい活気の溢れる明るい雰囲気。スターリ・モストから眺めたモスクや、ミナレットとネトレヴァ川の光景は風光明媚で、まさに息を呑む美しさでした。橋のそばの写真館やドキュメント映像が上映される施設では内戦当時の様子を知ることもできますが、まるで別世界の出来事のように思えます。内戦で使用された銃弾やヘルメットが土産品として普通に販売され、幸運にも見ることができたダイビングでは、観光客から大きな歓声が上がっていました。わずか十数年前に民族浄化の名のもとに、この地で殺し合いの悲劇が起こったことなど忘れてしまうほどです。

前述のブシュナキ氏が国際協力の成功例として紹介したモスタル。今では世界各国の観光客が集まり賑わっています。地元の方々や各協力機関の並々ならぬ努力の成果に違いありません。ここで強調したいのは、シンポジウムのテーマでもあった「持続可能性“Sustainability”」についてです。それは自然遺産だけでなく、少しニュアンスは変わりますが、文化遺産にも当てはまると考えます。スターリ・モストを単なるモニュメント(観光名所)化して捉えてはいけませんし、建築物を物理的に保護するだけでなく、当時の記憶を風化させてはいけないと強く感じました。民族和解と平和のシンボルとして守り続け、メッセージを内外に発信し続けなければならないと思います。日本に帰ったらぜひモスタルを紹介してほしいと話していたホテルオーナーが、私に期待していたのは、こういうことだったかもしれません。

写真は夕暮れ時、オールドバザールで偶然出会った新婚カップルです。皆が祝福し拍手を送っているのを見ていたら、幸せそうなこのふたりの姿が平和の象徴に思えてなりませんでした。

宮本 勇太(WHA準会員・世界遺産検定マイスター)

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