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■ 研究員ブログ37 ■ 映画を観て徒然と……

昔から映画が大好きで、よく観ているのですが、
世界遺産に関係する仕事をするようになってからは、
世界遺産が舞台になっていたり、世界遺産がテーマになっている、
というだけで、その映画を観に行ってしまったりします。

世界遺産が舞台やテーマになっている映画って
本当にたくさんあります。

映画のよいところは、
実際に行ったことのない世界遺産を物語と共に観ることが出来て、
その世界遺産の一面を垣間見ることが出来る点です。
単なる旅番組などよりも映画の方が世界遺産を楽しめるのは、
……ただ単に、僕が映画好きだからでしょうか。

先日もご縁があって、世界遺産の街を舞台とする映画
朝食、昼食、そして夕食』を観せて頂く機会がありました。

世界遺産の街、サンティアゴ・デ・コンポステーラで暮らす人々を、
人間にとって欠かすことの出来ない「食事」を通して描いていきます。

映画を観ていて、
ヨーロッパ人って「食事の場」を大事にする人々だったと、
留学時代を懐かしく思い出しました。

僕がフランス留学時代に入っていた大学寮は、
個室なのですが、各階ごとにひとつある台所だけが共有でした。
コンロがふたつしかない台所はいつも混雑していて、
食べている人の横で話をしながら調理して、できたらそこで食べる。
食べ終わっても皆でそのまま話をしていたりすると、
台所に3時間も4時間もいることもざらでした。

「食」というのは、まさに文化ですが、
「食」は食材や料理だけでなく、
「どのように食事をするか」ということも含んでいます。

つまり「食」とは、当たり前の話ですが、「人」と関係しています。
これは世界遺産にも当てはまります。

世界遺産は「不動産」だとはいえ、
「人」から切り離された世界遺産というものは存在しません。
世界遺産が守り伝えていこうとしているのは、
不動産で体現されている人の文化なのです。

もちろん世界遺産には、
今は途絶えてしまったけれど、かつては存在した文化を伝える遺産があります。
そうした世界遺産を保護・保全するのは現在の視点から見て、とても大切なことです。

しかしもっと大切なことは、
今ある文化を、今もこれからも確実に受け継いでゆくことです。
誰も信者が訪れることのなくなった教会や聖地をこれ以上増やさない、
現在も使われている建物は、博物館としてではなく、
これからも現役の「生きた」遺産として保護してゆく、というのが、
これからの世界遺産の重要なあり方であると僕は考えています。

『朝食、昼食、そして夕食』のホルヘ・コイラ監督は、
サンティアゴ・デ・コンポステーラのあるガリシア州で生まれ育ちました。
映画の中でも、マドリードなどのカスティーリャ文化や
バルセロナなどのカタルーニャ文化などとは異なる、
ケルト文化の影響を受けたガリシア地方独特の文化を感じることが出来ます。

こうした文化を生きる人々が、世界遺産のある街でこれからも生きてゆく。
「世界の多様性」を守る「生きた」世界遺産を支えているのは、
世界中の多様な文化を生きる人々なのです。

スペイン語がわかれば、この映画の中のガリシア語表現とかも聞き取れて
きっと楽しかっただろうなぁと思いました。

日本も、英語教育やグローバル化に力を入れるのも大事ですが、
地域に残る言葉や文化をもっと大切にしたらいいのに。

世界遺産からはちょっと話がずれてしまいましたが、
映画を観て、そんなことを徒然と考えました。