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■ 研究員ブログ38 ■ 富士山と鎌倉、ICOMOSの勧告雑感<後編>

■ 登録基準からみる富士山
富士山は登録基準(iii)(iv)(vi)で推薦書を提出しました。
しかし、ICOMOSの勧告では、登録基準(iv)が認められませんでした。

登録基準(iii)は、富士山に対する固有の文化的伝統を示している、
というもので、三保松原を除けば認められる、となっています。

登録基準(vi)は、富士山と周辺の景観美が芸術や信仰に影響を与えている、
というもので、これも三保松原を除けば認められる、となっています。

しかし登録基準(iv)は、日本独特の自然に対する信仰形態を示す景観の価値ですが、
これは「人類の歴史の重要な段階を示す」ものであると証明されていないとして、
認められませんでした。
ここでも信仰的な側面は評価するけれど、芸術的な側面は評価されず、
信仰と芸術が融合した富士山の価値が示されていないとの判断でした。

平泉が2011年に世界遺産登録された際、
同じように「人類の歴史の重要な段階を示す」ものではないとして、
登録基準(iv)が認められませんでした。

これは非常に難しい問題です。
日本の文化遺産は12遺産中8遺産でこの登録基準(iv)が認められていますが、
近年特に「人類の歴史の重要な段階」が重視されているため、
今後は日本固有の文化が示す景観の価値をどのように証明してゆくのかが
課題になってきます。

■ 富士山は自然遺産か文化遺産か
富士山はよく知られているように、
最初は自然遺産での世界遺産登録を目指していました。

よくゴミ問題のために自然遺産登録を断念したと語られますが、
それは正確ではありません。
もちろんゴミ問題は無視できませんが……。

富士山が自然遺産での登録を断念したのは、
富士山と同じような成層火山として、
『キリマンジャロ国立公園』や『トンガリロ国立公園』のナウルホエ山が
すでに世界遺産登録されている、ということがあります。

更には自然遺産で重視される「手付かずの自然(ウィルダネス)」というものが、
キリマンジャロやナウルホエの方がしっかりと残っているのです。

これは「登拝」という、富士山の文化遺産としての価値とも大きく関係しています。

富士山は古くより信仰の山として崇められてきました。
世界的に見ても普通は、聖なる山は遠くから拝む「遥拝」が行われます。
また山に登る場合でも、山の上にある聖堂などを目指しての巡礼です。
しかし富士山の場合は、遥拝や巡礼に加えて、
ご神体そのものである富士山に登る「登拝」が特徴です。

「登拝」は人が山に入るために、当然、人が入った痕跡、
ゴミであったり道路の舗装などがでてきます。
これが自然遺産の「ウィルダネス」にはそぐわないのは明らかでした。

今回、文化遺産として世界遺産登録を目指す背景には、
富士山のこうした特徴があります。

もちろん、文化遺産として世界遺産登録されたとしても、
自然があってはじめての富士山の価値であることは、言うまでもありません。

■ 鎌倉はどうする?
鎌倉は今回、最も厳しい「不登録」勧告でした。
現在残っている資産では、価値が証明できない、
つまり価値を証明する建物が残っていない、という点が
問題視されたようです。

これは石見銀山の時も平泉の時もされた指摘でした。
木の文化を中心とする日本の文化遺産には重い課題です。
江戸幕府や明治政府が、日本各地の城を壊させたのも無関係ではないと思います。

しかし、これで鎌倉の世界遺産登録への道が断たれたわけではありません。
今後は、推薦書を取り下げるか、
もしくは、世界遺産委員会で「不登録」から「登録延期」への
1ランク上の決議を目指すかの道があります。

実際、2011年に世界遺産登録を目指した
「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献」が
ICOMOSの「不登録」勧告から本会議の「登録延期」決議でした。

今回は世界遺産委員会の委員国に日本が入っているため、
本会議で「登録延期」決議になる可能性は充分あると、
僕は思っています。

本会議で「不登録」決議にさえならなければ、
まだまだ構成資産の練り直しや顕著な普遍的価値の再証明によって、
世界遺産登録を目指すことも、困難な道のりですが、不可能ではありません。

しかし、本会議でも「不登録」決議が出てしまうと、
再推薦は非常に困難になります。
「鎌倉からも富士山が見えるので、富士山の構成資産に鎌倉を入れてもらう!」
……というのは冗談ですが、
それくらいの根本的な価値の見直しをしない限り、
世界遺産登録は難しくなります。

鎌倉がどのような判断をするのか注目しています。

■ まだ世界遺産じゃない!
今回、富士山に出たのは、あくまでICOMOSからの「勧告」です。
ICOMOSで「登録」勧告になった場合、
まず本会議で覆されることはないので大丈夫だと思いますが、
「三保松原」に固執しすぎるとどうなるか解りません。

平泉の時も「柳之御所遺跡」を除くようにICOMOSから勧告され、
それに従って世界遺産登録されました。

富士山も、今回は三保松原は除き、
今後の拡大登録を目指した方がよい気がします。

あと2ヶ月。
6月16日からカンボジアのプノンペンで開催される世界遺産委員会を
ドキドキしながら待ちたいと思います。