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■ 研究員ブログ39 ■ 世界遺産を決めるのは誰?

とうとう富士山が世界遺産として登録されました。
富士山の世界遺産登録を祝うかのような十四夜のスーパームーンも
すごく美しかったですね。

今回の「三保松原」までを含んだ世界遺産登録には、
ほっとする反面、疑問を感じるところも多かった気がします。

ご存知の通り、ICOMOS は「三保松原」については
除外して世界遺産登録するのがふさわしいとの判断でした。
それが世界遺産委員会では、逆転して「三保松原」も含まれます。

これについては「政治的だ」とか「ロビー活動の勝利だ」とか、
さまざまなコトが言われ、批判もありますが、
本質はそこではない気がします。

そもそも、「国際」条約が政治的じゃないはずがありません。

では今回は何が問題だったかといえば、
世界遺産登録を判断するのは世界遺産委員会かICOMOSか?
という点です。

この点については、言うまでもなく、
世界遺産登録を判断するのは、世界遺産委員会です。
これは世界遺産条約をみれば明白です。

しかし一方で、世界遺産委員会は保全の専門家ではなく、
その多くが外交官である、という問題があります。
そのため、諮問機関としてICOMOSやIUCN、ICCROM が会議に参加しています。

今回のように、専門家(ICOMOS)の判断を、
専門家ではない人々(世界遺産委員会)が覆すことが近年よくあり、
「世界遺産登録を判断するのは誰なのか」ということが、
話題に上がることが多くなってきました。

先述の通り、世界遺産条約の条約上では、
それは世界遺産委員会なのですが、
世界遺産の本来の意義である、
遺産の保護と保全、という観点から考えれば、
専門家(ICOMOS)の判断が最優先のはずです。

実際、今回の世界遺産委員会で、
「三保松原」を大絶賛していた各国の委員は、
どこまで「三保松原」を知っているのか疑問です。
委員の何人が「三保松原」を訪れたことがあるのでしょうか。

世界遺産委員会の委員全員が、
世界中から推薦された遺産を実際に訪れるのは無理ですし、その必要はありません。

その代わりに、諮問機関であるICOMOSやIUCN などが、現地調査を行っているのです。

僕は、世界遺産登録を判断するのは世界遺産委員会である、
ということを充分に理解したうえで、
もっと専門家(ICOMOS)の判断を重視すべきである、と考えています。

芸術の源泉として、「三保松原」に価値があると信じているからこそ、
今回は「三保松原」ははずして登録し、
登録基準や保全計画などを再考して拡大登録を目指す、
という方がよかったのではないかと思っているのです。

今回の富士山関連の報道やテレビ番組を見ていると、
観光客が増えて経済効果がある、という観点のものが多いですが、
世界遺産はそういう目的のものではありません。

世界遺産になる、ということは、
「世界中の人々にとっての宝物を、日本人が代表して守ってゆく」
ということです。
もう日本人にとってだけの富士山ではないのです。

世界の富士山とどう向き合い共に生きて行くのか。
ここからが『富士山-信仰の対象と芸術の源泉』の始まりです。