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■ 研究員ブログ47 ■ 守るべき世界遺産はどの姿?

遠くに見えていた2014年が、
気がつくと表情までしっかり見分けられるほど近づいてきました。

2013年も残りあとわずか……。
一年ってなんでこんなに早いのかなと思いますが、
振り返ってみると2013年もいろいろなコトがありました。

一番大きなものは、富士山の世界遺産登録でしょうか。
富士山こそ、日本の顔として世界に誇れる最高の存在だと思います。
単体での認知度は、日本の中でも飛び抜けているからです。

富士山の世界遺産登録で大きく盛り上がりましたが、
一方で、世界遺産に関する様々な問題点が、
しっかりとした輪郭をもって表れてきたのも今年のことでした。

ユネスコ総会の決定に反対したアメリカ合衆国の投票権剥奪。
アメリカ合衆国のユネスコに対する分担拠出金の停止による深刻な資金難。
シリアの内戦などによる遺産破壊に対する世界遺産条約の非力さ。
ロンドン塔やセビーリャ、富士山などでの開発と景観の問題。

日本国内では、鎌倉のような「物」として残っていない価値を
どのように世界遺産の枠組みのなかで守ってゆくのかや、
暫定リストから推薦される遺産決定の不透明さなどなど。

なかでも特に僕が気になったのは、遺産修復や再建の問題です。

世界遺産というのは、街や遺産の「ある一点」
……顕著な普遍的価値があるとされた時点、で時間を止めて、
それを守り伝えていく、というのを前提としています。

もちろん、「歴史的都市景観の保護に関する宣言」などで、
都市の経済成長や開発と遺産価値の保護のバランスを取るように言われており、
時間を止めろとは言っていないのですが、
世界遺産条約の運用をみていると、どうなのかなと思ってしまうのです。

例えば、以前も書いたドレスデン・エルベ渓谷のように、
今年完成したワルトシュレスヘン橋を含めた21世紀までの景観
という解釈は不可能でした。

一方で「明治日本の産業革命遺産」に含まれる「端島(軍艦島)」は、
「廃墟の島」として人気ですが、
遺産の価値は「廃墟」になっている点ではなく、
20世紀初頭に炭鉱街として栄えた時点にあります。

もし顕著な普遍的価値がそこにあるのだとしたら、
廃墟からその当時の街並にまで戻したほうがよいのか……
それとも、ローマ遺跡のように廃墟となった遺産は廃墟のまま守られているので、
そのままでよいのか。
そのままでよいとしたら、
登録された時点の状態で保たなければ危機遺産となってしまいますが、
登録された時点の状態を保つことが顕著な普遍的価値と何の関係があるのか。

世界遺産条約では、その辺りが不鮮明です。
そのため、再建などの際に様々な問題が起こります。
どの時点のどの建築様式で再建するのか、
それが本当に正しいのか……そもそも再建すべきなのか。
平城宮跡に対するICOMOSの厳しい意見もあるし、
ヴィオレ・ル・デュクですら後に様式の誤りを指摘されたくらいですから、
再建というのは非常に難しくデリケートな問題です。

観光という観点からすれば、再建して何かしらの建物がある、
というのは重要でしょうが、世界遺産の価値の点から考えると、
安易に再建すべきではありません。

今後、世界遺産は形のある有名なもの以外も登録されるようになり、
どのようにその価値を評価し、守り、伝え、
そして観光資源としてゆくのか、ということが必ず課題となることが
今よりも増えると思いますが、
世界遺産登録を目指す際に、その点の認識が甘い気がします。
暢気すぎるというか。

世界遺産になればよい、ということでもなく、
物がなければ作ればいい、という話でもありません。
世界遺産条約が不十分であれば、
遺産を守る側がしっかりと考えなければならないのです。

2013年の僕の頭の中そのままのような
支離滅裂な文章で今年を締めくくるのは恐縮ですが、
2014年は世界遺産の保護について、
もっと考える年になるとよいですね。

まぁ、僕が一番考えるのはサッカー・ワールドカップのことですが。

それでは皆さま、
2013年もありがとうございました。
よいお年をお迎えください。