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■ 研究員ブログ48 ■ 地球は怒っている……かもしれない

2014年の年が明けたと思ったら、
すっかり桜に囲まれた春になってしまいました。
皇居の周りの桜も美しく咲き誇っています。

花ってよいですよね。
花からは、人体によいイオンとかそういった類の何か出ているんじゃないかってくらい、
見上げているだけで華やかな気分になってきます。

日本は四季があって、それを楽しむ二十四節気があって、
この気候風土によって日本文化は育まれてきたのですが、
そうした気候が今後大きく変わってしまうかもしれない、というお話です。

先月、横浜で開催されていた「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が報告書を公表し、
地球温暖化の影響はすべての大陸と海洋で生じていると警鐘を鳴らしています。

実際に公表されている報告書(第1、第2作業部会)を見てみると、
陸上の気温が1980年代頃から大きく上昇し、
過去1400年間で最も高い気温を保ち続けていること、
北極域の海氷面積が1980年代頃から著しく減少していること、
海面水位の上昇率が20世紀初頭から上がってきていること、
などがわかります。

これが人類の経済活動による温室効果ガスの影響なのか、
それとも生命体としての地球全体のサイクルなのか、
確実な原因は判明していません。
おそらく複数の要因が絡み合って発生しているのでしょう。

中世でも気候異常があり、
現在と似たような高温期(950~1250年)があったようですが、
それは一部の地域的なもので、
現在のように多くの地域で一貫性をもって発生したものではなかったことを考えると、
IPCCの報告にもあるように、経済活動(人間活動)の要因が大きい気がします。

また、報告書では同時に、
温暖化により農作物の収穫量の減少や、
それに起因する農作物価格の高騰や資源を巡る紛争、
集中豪雨や旱魃など自然災害の増加などが起こるとされています。

それに関連して、
「Environmental Research Letters」に載った
アンデルス・レーバーマン教授らの論文
「Loss of cultural world heritage and currently inhabited places to sea-level rise」によると、
調査した文化遺産と複合遺産の720件のうち、
気温が3℃上昇すると136の遺産が水没し、
5℃上昇すると149の遺産が水没するとしています。

実際、パラオ共和国などは海面が1993年以降、毎年9mmも上昇しており、
国土自体が水没してしまうのではないか、という深刻な状態にあります。
当然、その時はパラオの世界遺産『ロック・アイランドの南部ラグーン』は水の中でしょう。

地球温暖化は海面上昇だけでなく、地球環境を大きく変化させます。

フランスの『サン・テミリオン地域』がブドウの生産に適さなくなれば
その文化的景観としての価値は損なわれます。
メキシコの『エル・ビスカイノ鯨保護区』にクジラが周遊しなくなれば、
その保護区としての生物多様性の価値は損なわれます。

そして同時に、地域の気候風土に育まれてきた文化も損なわれていきます。
文化も風土も変化してゆくものだ、という文化概念の想定を超えた
急激かつ劇的な変化が起こる可能性があるのです。

今、対策をとらなければ、深刻な未来しか残されません。

世界遺産条約が誕生した1960年代後半から1970年代。
世界的な高度成長期を背景に環境破壊や文化遺産の取り壊しが続きました。
経済発展が最優先された時代です。

世界遺産条約の採択と同じ1972年に出された
ローマクラブによる『成長の限界』は、
このままの状態が続けば、100年以内に地球は限界に達すると
強い警鐘を鳴らすものでした。

世界遺産の保護・保全活動は、そうした経済発展優先の世の中に、
一度立ち止まって自分自身や自分の文化、周囲の自然を省みることを促すものです。

最近の世界遺産登録をめぐる各国や各地の動きは、
当初の理念から離れたものになってきているような気がします。
世界遺産登録すら、経済効果を最優先に考えているような。

地球温暖化や海面上昇を原因とする危機遺産はまだありませんが、
もしかすると今後、そうしたものが増えてくるかもしれません。
それからでは遅いのです。

経済活動というのは、私たちが生きてゆくうえで欠くことのできない
重要なものであり、決して軽視できるものではありません。
しかし、それが何にも勝る最優先事項である、ということはないはずです。
少なくとも、僕はそう思っています。

集中豪雨とか豪雪とか暴風とか猛暑とか……
地球が怒っている! なんていうのはロマンティックに過ぎるでしょうか。