● マイスターのささやき:[富岡製糸場と絹産業遺産群] 見学最新レポート
世界遺産検定 マイスター 鈴木真紀
皆様、こんにちは。マイスターの鈴木真紀と申します。「マイスターのささやき」に、初めて投稿させていただきます。よろしくお願い致します。ホットな話題ということで、「富岡製糸場と絹産業遺産群」の見学レポートです。日本の世界遺産18件目に登録される可能性大!皆様もぜひ、お出かけ下さい。私のレポートが参考になれば幸いです。
5月4日(日)に富岡製糸場へ行って来ました! テレビでも報道されているように、
4月26日にICOMOSが、世界文化遺産への「登録」を勧告したことで、一躍注目を集めていますよね。私自身、前々から見学に行きたいと思いながら機会を作ることができず、本来なら混雑を避けたいところでしたが、5月8日に行なう、「英国の世界遺産—世界遺産の現状と未来」というテーマの講演で、「産業遺産」について説明したいと思っており、自分の写真を使用したいということもあって、混雑覚悟で出かけました。
まずは、高速道路の渋滞と戦いました。東京を午前7時10分に出発して、ノンストップで現地に到着したのが、10時40分。富岡製糸場から1キロほど離れた場所に、無料の市営駐車場があったので、そこに車を停めて歩いたので、製糸場到着は11時でした。すでに
長蛇の列!「約1時間待ちです。」と告げられました。日陰がないので、帽子か日傘がある方が楽です。私は日傘を持っていたのでOKでした。列はかなり長かったですが、実際には
40分待ちで入場できました。係員のテクニックですね。例えば、30分と言われて40分待たされたら、イライラしてしまうでしょうが、1時間覚悟しての40分だったので、「思ったより早かったね」という感じでした。6月の世界遺産委員会で「登録」が決定したら、更に混み合うことは必至ですので、早い時期の見学をお薦めします。
ボランティアによる無料ツアーは、本来30分おきくらいの設定ですが、ゴールデンウィーク中で見学者が多いということもあって増員されており、「随時」解説ツアー出発という
ことになっていました。(ニュースなどでも報道されていますね)実際には、およそ10分毎に出ていました。私も参加しましたが、大変詳しい説明で勉強になりました。参加なさると良いと思います。写真撮影は、見学できるところでは建物の内外すべてで、許可されていました。見学に訪れている観光客の中には、富岡製糸場が何であるかを知らないまま来ている人も多く、「せいしじょうって、製糸場だったんだ!」という声が聞こえて来ました。
「製紙場」だと思っていた感じでした…。(笑)
今年2月の大雪により、「乾燥場」が倒壊してしまいました。世界遺産登録を目の前にして、大変な試練に見舞われた形です。今後、国と群馬県が予算を出し合って修復が行なわれるそうですが、現在は、ありのままの姿を見ることができるので、今の姿と、将来、修復されてからの姿の両方を見るのも有意義だと思います。
解説ツアーの所要時間は約40分、そのあと自分で端から端まで見学して、全部で約1時間半見学にあてました。「富岡製糸場と絹産業遺産群」という名前からもお分りの通り、
世界文化遺産に登録される見込みの遺産は、4つの資産によって構成されています。最低でも、そのうちのあと1資産は見学したかったので、富岡製糸場の見学は1時間半で切り上げましたが、できれば、2時間位見学に当てることができたら理想だと思います。
さて、「旅」の楽しみと言えば、「見る」「買う」「食べる」ですね。私は、「食いしん坊」なので、どこかへ出かけると、その土地の名物を食べるのを楽しみにしています。
お正月に河口湖へ行った時に、美味しい「ほうとう」を食べたので、富岡では、上州名物の「おきりこみ」(おっきりこみとも言います)を食べようと計画していました。山梨県の「ほうとう」に似た、手打ちの、こしの強いうどんです。富岡製糸場に程近いところに、
「おきりこみうどん」と看板が出ていた某レストランで食べることにしました。見ると、
7、8名の客が店の外に並んでいましたが、「うどんだから回転が早いだろう」と思って、並ぶことにしました。ところが…、待てど暮らせど順番が廻って来ません。結局なんと40分店の外で並ぶことになってしまいました。「え〜、富岡製糸場に入場するのと同じ時間待たされたよ」と、かなりイライラしました。製糸場見学の為の40分は赦せても、うどんの待ち時間が40分は赦せないですよね!しかも、オーダーしてから、更に25分も待たされてしまいました。
富岡製糸場そのものは、「受け入れ態勢」が万全でも、周辺の店やレストランは、急なブームに対応が追いついていないというのが感想です。これは、世界遺産を持つ町として、大きな課題だと思いますが、時間を経て、徐々に改善されて行くのでしょう。
この、名物「おきりこみ」は、野菜がたっぷり入ったうどん(のような物)です。群馬出身の友人によると、群馬では、昔あまり米が取れなかったので、二毛作により沢山作られる、小麦粉を使って、家庭料理として一般的な食べ物なのだそうです。その友人(50代の女性)が子供の頃には、お母さんが毎日、おきりこみ、または、うどんを手作りしていたそうで、
一日に一度も米を食べない日があるとしても、うどんを食べない日はなかったのだそうです。
「白いごはんが食べたいよ〜、おにぎりが食べたいよ〜」と、子供心に思っていたそうで、
「お米が主食」を当たり前のように思っていた私にとって、新鮮な話でした。
さて、上記のように、やっとの思いで「おきりこみ」にありついた後、「富岡製糸場と絹産業遺産群」を構成する資産の一つ、「高山社跡」へ行きました。富岡から車で、30分弱で到着しました。パンフレットによると、無料の駐車スペースが10台と書いてありますが、
おそらく最近オープンしたと思われる、4、50台は停められそうな別の駐車場が、300メートルほど離れたところに設けられていました。臨時ではなく、常設です。
「高山社跡」は、通風と温度を管理することによって、かいこが桑の葉を沢山食べる環境を人為的に作り、絹の生産量を大幅に増やすことに成功した、「清温育」という技術が誕生した場所です。また、その後、多くの人たちがこの技術を学んだ、技術者養成所にもなりました。明治時代の建物なので、二階部分は観光客の重みに耐えられない恐れがあったため、去年までは二階の見学はできなかったそうです。最近床の補強が行なわれ、見学ができるようになったとのことですが、支えられる重量は1200キログラムまで。一度に二階に上がれるのは、大人15名ほどに制限されています。今後、世界遺産に登録されたら、訪れる見学者をさばくことができなくなるかもしれないので、二階の見学は、「今がチャンス」かもしれません。
「高山社跡」の周辺は、竹林があり、鶯の鳴き声が聞こえるような風情のある所です。鶯は、人や車が増えるといなくなってしまうのではないかと、少し心配です。もともとの環境を守り抜いて行くことも課題ですね。
4つの資産のあと2つは、「荒船風穴」と、「田島弥平旧宅」です。4つの資産の間に距離があるので、全部を一日で見学して、東京との間を往復するのは、ちょっと厳しいです。
パンフレットにも、1泊2日で4資産を見学することが薦められています。私も、再度の渋滞と戦う必要があったので、心残りではありましたが、「荒船風穴」と「田島弥平旧宅」の見学はあきらめて帰途に付くことにしました。
「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、「産業遺産」というカテゴリーが、厳密には、「産業革命以降の近代産業の遺構」と考えられていることから、「日本初の近代産業の世界遺産」となる見込みです。「産業遺産」といえば、世界で初めて産業革命を成し遂げた、英国に7件の産業遺産が世界遺産リストに登録されています。産業遺産の登録数としては世界一です。昨年、スコットランドの「ニュー・ラナーク」を見学しましたが、労働者の宿舎、教育施設、診療所などの社会福祉も考慮された「産業コミュニティー」であるという点において、「富岡製糸場」との多くの共通点がありました。
来月カタールのドーハで行なわれる、世界遺産委員会の決定が楽しみですね。