■ 研究員ブログ⑧ ■ サグラダ・ファミリア贖罪聖堂から見えるもの
昨日11月8日(月)の朝日新聞朝刊に、
ローマ法王ベネディクト16世がサグラダ・ファミリアで献堂式を行った、
という記事が出ていました。
https://www.asahi.com/international/update/1108/TKY201011080001.html
アントニ・ガウディの設計で1882年に着工されて以来、
128年間も献堂式が行われていなかった、というコトを、
僕は知りませんでした、恥ずかしながら。
献堂式というのは、
新しく建築された教会堂を神に捧げ「正式な」祈りの場とする、
ローマ法王がお墨付きを与える儀式です。
これにより、サグラダ・ファミリアは
ローマ法王によって権威付けされた「バシリカ」となりました。
この独特なフォルムを持つサグラダ・ファミリアが
世界遺産に追加登録されたのは、2005年のことです。
すでに完成している誕生のファサードと地下聖堂のみの登録で、
現在建築中の箇所は、当然ですが、登録範囲ではありません。
このサグラダ・ファミリアからは、
1. 近代建築の登録強化という世界遺産のグローバル・ストラテジー
2. 世界遺産の保全と観光
3. カタルーニャ対カスティーリャ
などなど、いくつかの視点が見えてきます。
そしてそのそれぞれは、互いに関係しています。
グローバル・ストラテジーに基づいて、
近代建築の世界遺産登録が進んでいますが、
アール・ヌーヴォーの影響を受けて、
サグラダ・ファミリアのあるバルセロナを中心に花開いた「モデルニスモ」は、
カタルーニャの民族主義と深く結びついており、
マドリードなどのカスティーリャ文化を軸とする
国家「スペイン」に対するアンチテーゼの意味合いもありました。
また観光の弊害の方に目が行きがちな世界遺産ですが、
このサグラダ・ファミリアは、
観光収入の一部が寄付として保全と建築の費用に当てられるなど、
観光をうまく利用できている遺産でもあります。
……落書きなどの問題はありますが。
しかし、サグラダ・ファミリアがこれだけ有力な観光資源でありながら
建築予算が充分でない背景には、
あまり上手くいっているとは言えない
カスティーリャ文化のマドリード政府と
カタルーニャ文化のバルセロナの関係も見え隠れしますし、
スペインの国鉄である RENFE が、
高速鉄道(AVE)をサグラダ・ファミリアの地下すぐ近くに通す計画を立て、
多くの反対を押し切って先日、そのトンネルの掘削を終えたのも、
そうした政治問題と無関係とは言えない気がします。
世界遺産というのは「目に見えやすい」存在なので、
政治的に利用されることも多いですが、
政治問題によって世界遺産を危機に晒すことだけは
止めてもらいたいと思います。
……まぁ、今回のローマ法王の献堂式も、
これまた世界遺産のサンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂広場での演説も、
カトリック教会批判と若者のカトリック離れを食い止めたい、
という思惑があるわけですが。
カトリックの長女と言われたフランスで、
若者が最も恐れているのが「死ぬこと」というアンケート結果がでて、
若者のカトリック離れが相当深刻なものになっているみたいだし、
カトリック教会も必死なのです。
しかし、こういう風な「政治的」世界遺産利用なら、
よい意味で注目が集まるからよろしいですよね。
「世界遺産」は、良くも悪くも、
人々の関心を集めるキーワードなのです。
受難のファサードにある「真理とは何か?」というレリーフ