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■ 研究員ブログ26 ■ 富士山は世界の富士山になれるか!?

7月27日、山梨県と静岡県は『富士山』の世界遺産登録に向けた
推薦書原案を文化庁に提出しました。

文化庁はこの原案を元に推薦書を作成し、
2012年2月1日までにユネスコに提出する予定です。
順調にいけば2013年の世界遺産委員会で
無事に世界遺産登録、となるはずです。

富士山の世界遺産登録は、日本人の悲願である気がします。
富士山は日本人にとって特別な存在であるだけでなく、
「日本」という国のブランド力を高める存在として、
海外でもよく知られる存在だからです。
富士山が世界遺産になっていると誤解している人も
少し前までは多くいました。

ただ富士山の世界遺産登録はそう簡単なものではありません。

ゴミ問題の所為で自然遺産登録できない、なんてコトを
真しやかにテレビで言っているのを聞いたことがありますが、
それは正しいとは言えません。
……もちろん世界遺産登録の過程で憂慮すべき点ではありますが。

世界遺産登録で重要なことは、
他ではみることのできない「顕著な普遍的価値」を持っている、
という点です。

つまり同じような特徴を持つ遺産が既に世界遺産登録されている場合、
そことは異なる新たな普遍的価値がなければ、
どんなに素晴らしいものでも世界遺産登録されない、ということです。

これは「彦根城」が長い間、暫定リストに記載されていながら、
同じ「日本の木造城郭建築」の価値を持つ『姫路城』が
世界遺産登録されているがために、
なかなか世界遺産登録に至らない理由でもあります。
また「ナイアガラの滝」が世界遺産にならない理由のひとつでも
あると思います。

富士山が自然遺産で世界遺産登録を目指す場合、
生態系の登録基準(ix)(x)での登録は無理なので、
地球生成の登録基準(vii)(viii)で推薦することになります。

そうすると、成層火山として同様の特徴を持つ『キリマンジャロ国立公園』や
『トンガリロ国立公園』のナウルホエ山など、
既に世界遺産登録されているものと価値が似ているために、
世界遺産登録が困難なのです。

登録基準(vii)のみで登録されているキリマンジャロよりも
富士山のほうがずっと美しいと僕は思いますが、
『キリマンジャロ国立公園』が先に世界遺産登録されている以上、
もうどうしようもないのです。

ゴミ問題以前に、こうした理由で自然遺産での世界遺産登録は見送られました。

ならば山岳信仰の場としての文化的景観での世界遺産登録なら大丈夫か、というと
これも容易な道のりではありません。

ひとつは山岳信仰を世界に対してどう説明するのか、という問題。
私たち日本人の中で、富士山に対して畏敬の念を抱く人は多くても、
信仰の対象としている生活の中に取り入れている人は、
そう多くはないと思います。
これは『紀伊山地の霊場と参詣道』でも言える事ですが、
寺社の多く残る紀伊山地と、富士山を御神体とする浅間神社関連のみの富士山では、
世界に対する説明のしかたも自ずと異なってきます。

もうひとつは、それと関係するのですが、
陸上自衛隊の演習場の問題です。
今回、演習場を「保全管理区域」として保全区域に含めていますが、
これはどうしても無理があると思います。
いくら国防上必要だとはいえ、信仰対象の山に砲弾を撃ち込んでいるのを、
どう説明するのでしょうか。

今回、富士山をどの登録基準で推薦するのかはわかりませんが、
よほど構成資産を選別して推薦文書を練りこまないと難しい気がします。

満月の冬の夕暮れ、
富士山に積もった雪が月明かりに照らされて
青白く浮かび上がった姿は、
息を呑むほどの美しさがありました。

世界遺産であっても、世界遺産でなくても、
富士山の美しさや自然は守ってゆきたいものだと思います。

もちろん、世界遺産登録されることを望んでいますが。