■ 研究員ブログ70 ■ 明治日本の産業革命遺産⑦:登録勧告からの、登録の延期はありえる!?
昨日は暑かったですね。
昨日まで沖縄にいたのですが、沖縄もよい天気でした。
飛行機からも富士山が綺麗に見えて。
沖縄大学で授業させていただき、その後、沖縄の世界遺産を見てきたので、
今回はそのことでも書こうかと思っていたのですが、
今朝、明治日本の産業革命遺産に関して、研究員の本田さんから
「ICOMOS(イコモス)の登録勧告でも安心できないですよ、宮澤さん!」
といわれたので、ちょっと調べてみました。
本田さんいわく、ICOMOSで「登録」勧告が出た遺産で、
本会議で登録にならなかった遺産に、
イスラエルの「ダンの三連アーチ門」があるというのです。
「ダンの三連アーチ門」については僕も知っていて、
2006年の段階で、ICOMOSから「登録」の勧告が出たものの、
「推薦取り下げ」をして、本会議では審議されなかった、
と認識していました。
しかし、今回本田さんから聞いて調べてみると、
確かに、本会議で登録が「延期」になっていました。
イスラエルの「ダンの三連アーチ門」は、
暫定リストでは「ダンの三連アーチ門とヨルダン川の水源」という名称で
複合遺産として記載されています。
この遺産には「テル・ダン自然保護区」と「ダンの古代都市」が含まれています。
ダン川は、3本のヨルダン川の水源のうち最も大きなもので、
ヨルダン川の水量の半分を占めているそうです。
一方でこの地域には、約7,000年前から人々が暮らしていた痕跡があり、
紀元前18世紀には都市が築かれたと考えられています。
この遺産は2000年に暫定リストに記載され、
2006年の世界遺産委員会に向けて推薦されました。
しかし、ICOMOSからの「登録」勧告を受けながらも、
世界遺産委員会前に、イスラエルによって推薦が取り下げられました。
その理由は調べられませんでした。
一部記事によると、2008年の世界遺産委員会にも推薦され、
「情報照会」の決議だったそうですが、
2008年の世界遺産委員会の議事録では見つけられませんでした。
2009年の世界遺産委員会では審議が行われましたが、
推薦時の登録基準(i)(ii)(iv)のうち、
登録基準(ii)についてはその解釈が評価された一方、
登録基準(i)と(iv)は認められず、
2010年の世界遺産委員会までに
より詳細な法的・技術的な状況を示す書類の提出が求められました。
2010年の世界遺産委員会では、「顕著な普遍的価値」は認められたものの、
法的・技術的な状況を示す書類が不十分であるとして、
追加情報が提出されるまで「審議を延期」するとの決定でした。
そして2011年の世界遺産委員会では、
再び「顕著な普遍的価値」が認められたものの、
この時はより明確に「国境問題が確定するまで審議を延期」するという決定でした。
つまりこの遺産は、ヨルダンとの国境問題が微妙な場所にあるため、
「国境問題が確定するまでは世界遺産委員会は関与しない」
という扱いになったということです。
2008年の『プレア・ビヒア寺院』の登録により
タイとカンボジアの紛争が再燃したことにより、
ユネスコも世界遺産委員会も慎重になっているのかもしれません。
この『プレア・ビヒア寺院』の時もそうだったのですが、
「遺産そのもの」というよりもバッファー・ゾーンが問題になってきます。
「ダンの三連アーチ門」でも、国境問題とバッファー・ゾーンの関係を考慮し、
2007年時の37万平方mから、2010年には28万平方mまで
バッファー・ゾーンを縮小しました。
こうしたバッファー・ゾーンの未確定問題も、
世界遺産委員会では問題視されているようにも感じます。
ヨルダンとイスラエルは、
危機遺産になっている『エルサレムの旧市街と城壁群』の保護・保全についても
より緊密に協議をしつつ進めるようにと言われていますが、
あまりうまく進んでいないので、国境問題の確定なんていつになることでしょう。
それまで「ダンの三連アーチ門」の登録は先送りになっているわけですから、
先行きは全くもって不透明です。
注目すべきは、「ダンの三連アーチ門」は、
「情報照会」や「登録延期」の決議ではなく、
「審議そのものを延期」するという決定だったということです。
長くなりましたが、今回の「明治日本の産業革命遺産」。
韓国の反対によりユネスコや世界遺産委員会から、
「政治問題と関係する遺産」と判断された場合、
「ダンの三連アーチ門」と同じく、「審議を延期」になるということは
充分あり得ると、今回調べてみて思いました。
先ほども書きましたが、近年のユネスコや世界遺産委員会は、
ホームページ上に「いかなる政治的な主張や立場を代弁するものではない」と表明しているように、
政治問題に関与すること、関与しそうなことに、極めて慎重であると思います。
世界遺産の審議が「世界遺産の価値と保護」に関するものではなく、
「政治問題の駆け引きの場」になってしまうことは、非常に残念なことです。
そして、それこそ世界遺産の理念からは離れてしまっています。
日本は、「時代が違う」という一方的な論理で韓国の主張を切り捨てるのではなく、
彼らの意見を傾聴しつつ、丁寧に遺産の価値と保護の重要性を訴える必要があります。
決して政治問題に話題をもっていかれないように。
やり方を間違えれば、世界遺産登録の先送りもないとはいえないのですから。