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■ 研究員ブログ114 ■ 「モアナと伝説の海」からグレート・バリア・リーフへ

先日、ディズニーの新作映画『モアナと伝説の海』を観にいってきました。

ディズニーのアニメを映画館で観たことはこれまでなかったのですが、
ときどき実写を混ぜてるのか!? と思うほどの映像の美しさや、
ポリネシアの文化のいいとこ取りともいえる物語で
とても楽しむことができました。
ディズニーって盛り上げ方が上手ですよね、ほんとに。

今回、映画館まで足を運んだのは、
大学院生の頃に研究で一週間ほどポリネシア文化圏のタヒチに
滞在したことがあり、公開前から興味をもっていたことと、
世界遺産検定の監修でもお世話になっている南山大学の後藤明教授が、
ポリネシア文化関連でこの映画に関わっていると伺っていたためです。

映画を観ていて、タヒチでの滞在を思い出しました。
さまざまな青さを見せる珊瑚礁は美しく、
手が届くほど近くに見える夜の星々は、あまりに数が多すぎて怖くなるくらいでした。

彼らの文化にとって「海」はとても重要な意味をもちます。
多くの恵みをもたらすだけでなく、
自分たちの生活を世界を結びつけるものだからです。

現代の日本で暮らしていると、
「海」とは日本と海外を隔てるもので、
海に囲まれている日本は、どこか世間知らずで、
独自の文化を作り上げてきたと思いがちです。
陸続きで他国と結びついている大陸的な価値観とは
日本のそれが異なっているのは確かだと思います。
それが日本のよさでもあるわけですが。

しかし、ポリネシアやミクロネシア、メラネシアなどの
オセアニアの国々は「海」に対して異なった見方をしています。

彼らにとって「海」は「隔てる」ものではなく「繋ぐもの」なのです。
海を渡って島から島へと移住し、交易を行い、文化交流が行われました。

広大なオセアニアに点在する島々はとても小さなものですが、
彼らにとって大切なのは、自分が住む小さな島だけでなく、島を含む海全体です。
彼らは小さな島に暮らす人々ではなく、大きな海に暮らす人々なのです。
アメリカ合衆国の世界遺産『パパハナウモクアケア』は
まさにその価値が評価された複合遺産といえます。

映画の中で架空の島モトゥヌイに住む少女モアナが、
島の中での暮らしに満たされることなく、
父に逆らってまで海に飛び出していったのは、
ポリネシアンの彼女にとって自然なことだったのでしょう。

映画の中の話なのであまり詳しくは述べませんが、
モアナの父が島を囲む珊瑚礁の外に出ることを禁止したのは理由がありました。
モトゥヌイには、半神半人のマウイが女神テフィティの「心」を盗んだため、
世界が闇に包まれてゆくという伝説があり、
珊瑚礁で守られた島の外に出ることは危険だと信じられていたからです。

ここにもうひとつ別の、海に対する捉え方があります。

海は恵みをもたらす母である反面、
厳しく激しい父でもあります。

その厳しい外海から島の生活を守ってくれるのが、島を取り囲む珊瑚礁です。
珊瑚礁は外海の高い波を穏やかにする天然の防波堤の役割をしています。
珊瑚礁は島の人々の生活を守るだけでなく、多くの生き物が暮らす環境を生み出し、
それがまた人々の生活の糧となりました。
闇から島民を守りたいモアナの父が珊瑚礁を境界にしていたのはそのためです。

こうした珊瑚礁の価値で世界遺産登録されているのが、
オーストラリアの『グレート・バリア・リーフ』です。

オーストラリア北東の海岸沿い約2,000kmにもわたって広がる世界最大の珊瑚礁は、
多くの海洋生物が生息し、海鳥の休息地でもあり、
また先住民アボリジニの文化や生活を支えてきました。
美しい珊瑚礁が自分たちを守ってくれているという感覚は、
珊瑚礁が身近になかった僕にはありませんでしたが、
環礁の近くで暮らす人々にとっては当然の感覚なのかもしれません。

その『グレート・バリア・リーフ』の珊瑚礁が現在危機に直面しています。
地球規模の気候変動による海水温度の上昇や多発するサイクロン、
沿岸の港湾工事や、工事によってゆるんだ土地からの土砂の流出など、
さまざまな理由から多くの珊瑚が死滅しており、
1985年以降で約半分にまで減少したとの調査結果もあります。

ここ数年、世界遺産委員会では繰り返し『グレート・バリア・リーフ』が議題となり、
危機遺産リスト入りも検討されました。

まるでマウイがテフィティの心を奪ったことで闇が迫ってくるように、
『グレート・バリア・リーフ』にも闇が近づいてきているのです。

珊瑚礁の減少は、そこで生きる生き物たちに影響を与えるだけでなく、
そこで暮らす人々の生活や文化にも大きな影響を与えます。
観光客の減少というのは小さな一側面に過ぎません。

地球温暖化なんて嘘だと主張している人々もいます。
気候変動なんてこれまでの地球の歴史の中で何度も繰り返されていることだと。
もしかしたらそうなのかも知れませんが、
でも人間の経済活動がそうした変動に拍車をかけていることは
確かなのだろうと僕は思っています。

もしかしたら、テフィティの心を奪ったのは
私たち「人間」なのかもしれません。

人間のモアナが半神半人のマウイの力を借りてテフィティに心を返し、
美しく豊かな自然を取り戻したように、
私たち人間にできることをしてから
地球の自己治癒力に委ねるのがいいのかもしれませんね。
どこかにいるであろう神々の力も借りて。

モアナは私たちだ、というのは、
映画に影響されすぎですね。
すみません。

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