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◇遺産復興応援ブログ:第7回 中国における新たな遺跡発掘は考古学と盗掘の戦いの場3(最終回)

遺産復興応援ブログ 遺産復興応援ブログ   タグ:中華人民共和国 
(2021-11-17更新/ WHA 秘書

 中国内で遺跡盗掘事件が最も多いと言われる山西省では、2019年3月に山西省公安庁と山西省文物局の主催で大々的な文物犯罪に対する成果展が開催され、2018年度の「全国十大考古新発見」に選ばれた「酒務頭商代墓跡」から盗掘された青銅器等の文物が展示され、国家の文明と重要文物の保護に大きな成果を出した旨、大々的な宣伝活動が行われていた。

 以下、最近のニュースデータから、新たな遺跡発掘に伴う考古学と盗掘の戦いの実態を伝える記事タイトルとその概要をピックアップし、盗掘問題を考える一つのヒントにしたい。

盗掘は10万人規模の“産業”、警官が「公務」で掘る例も=中国【2010年3月17日・Searchina】
 中国社会科学歴史研究所先秦史研究室の宋鎮豪主任はこのほど、中国国内で盗掘が“一大産業”になっていると述べた。宋主任によると、“盗掘産業”の従業者は少なく見積もっても10万人。以前にも地元住民が盗掘を行っている例は珍しくなかったが、現在は盗掘・流通・販売など、産業チェーンが確立された。また、警察が盗掘に関与している場合もある。山西省の西周時代の遺跡では、警察官が盗掘に関与し、「公務執行」として堂々と掘り出していたという記事。

道路工事で遺跡を発見、村人押しかけ略奪合戦=中国・陜西【2010年9月15日・Searchina】
 陜西省渭南市臨渭区の農村部で道路工事をしていたところ、仰韶期と見られる遺跡が見つかった。直後から、村民が大勢押しかけ、文化財を持ち去った。文化財保護などを行う臨渭区文物管理所は5日、省と市の関連部門から連絡を受け、同日午前中に職員が現場に駆けつけたが、多くの村民が鋤や鍬などを持ち、文化財を掘り出していたとの記事。

中国史上最悪!85億円「墓荒らし」のゴッドハンド先生…盗掘団率い30年、猶予付き死刑判決男はカジノ大好き【2016年5月13日・産経WEST】
 中国の遼寧省にある牛河梁遺跡などで2014年に発生した被害総額約5億元(約85億円)にのぼる大規模な盗掘事件で、主犯格の50歳代半ばの男に執行猶予付きの死刑判決が言い渡された。男は遺跡の盗掘を30年以上も繰り返してきた経歴の持ち主で、掘ればあたるゴッドハンドぶりを発揮し、200人以上の大規模盗掘グループを率いて「中国建国以来最大の盗掘事件」を主導したとされる事件。

曹操の墓に盗掘された形跡、その理由は―中国メディア【2018年3月28日・Record China】
2018年3月27日、中国の河南省安陽市にある後漢末期の墓で、後漢末の武将・曹操の墓とされている「西高穴2号墓」について、同省文物考古学研究院はこのほど「複数回にわたって組織的に破壊、盗掘された形跡がある」と明らかにしたという記事。

日本に流出した国家一級文化財「曾伯克父青銅組器」が中国に返還【2019年9月11日・人民網日本語版】
中国国家文物局は、オークションのため日本に流出した春秋初期の「曽伯克父青銅組器」が中国へ返還されたと発表した。中国に返還後、国家文物局から指示を受けた国家鑑定委員会や関連分野の専門家は鑑定と科学的検査・測定を行い、「曾伯克父青銅組器」は国家一級文化財に認定された。湖北省随州市の春秋初期曽国上級貴族墓で出土した同文化財は、錆の腐食状態などの分析の結果、近年に盗掘されたと断定されたとの記事。

山西省公安庁、盗掘文化財2万点を関係部門へ引き渡し【2020年9月26日 Xinhua News】
中国山西省公安庁は、省内の公安機関が盗掘事件などの捜査で取り戻した文化財2万80点を同省文物局へ引き渡した。引き渡しは昨年以降で3回目。1回目からの累計件数は4万5493点に上る。これまでに引き渡された文化財には「晋公盤」「蟠蛇文建鼓座」など価値の高い青銅器も含まれており、一部は山西青銅博物館で一般公開されるとの記事。

 以上のニュースデータからも分かるように、中国では未だに盗掘の歴史が営々と続いている。陝西省西安郊外の「始皇帝陵と兵馬俑坑」については、1974年に現地の農民によって一部の破片が発見され、翌1975年に1号坑の全貌が公表されて世界中を驚かせたことで知られているが、筆者が2009年と2011年の2回に渡って訪れた際には、1975年の新発見の前から何カ所も古い盗掘跡が見つかっており、未発見の兵馬俑が墓泥棒や盗掘団の標的にされているとの話を現地ガイドから聞かされていた。

 2011年夏に考古学ツアーで訪れた『始皇帝陵と兵馬俑坑』(By T.Koriyama)

 現代の考古学が本格的に活動し始めた1980年代以降の遺跡発掘の中には「中国十大考古新発見」に選抜され、歴史を塗り替えるような新発見については、世界文化遺産の候補に挙げられるケースも少なくない。しかし、世界文化遺産登録の『先兵役』としての役割を担っている現代考古学が活躍する各地の発掘現場では、その多くが何らかの盗掘被害を受けているのが実態だ。中国政府はこうした新たな遺跡から発掘された埋蔵文化財保護のため、目下、国を挙げて盗掘の取り締まりを強化しているものの、盗掘の噂は絶えず、公安警察と墓泥棒や盗掘団による“いたちごっこ”の状態が続いている。

 考古学にとっても盗掘は貴重な文化財の散逸消散を意味し、決して赦されるものではないが、広大な大地に散在する埋蔵遺跡を史料や先端技術だけで発見するのは極めて難しく、如何に早く盗掘の噂をキャッチし、初期段階での盗掘された文物を最小限に抑え、取り戻すことで精いっぱいというのが実情のようだ。このように、中国では新しい遺跡発見の度に考古学と盗掘の戦いが繰り広げられているものの、盗掘そのものは考古学にとって遺跡発見の「先兵役」にもなっており、深い関係にあるという考古学者達の言葉が改めて思い出される昨今である。(最終回)

(T.Koriyama)

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