●マイスターのささやき NO.1 古都奈良の文化財 東大寺
【古都奈良の文化財 東大寺の「お水取り」】
皆様はじめまして。 WHA会員の市川と申します。この度マイスターのブログを作ることになり、最初の投稿というのは気が引けますが、季節の話題なので(といってもすでに1か月経ってしまいましたが)投稿させていただきました。
3月10日、「古都奈良の文化財」東大寺二月堂の修二会(しゅにえ)を見に行ってきました。 奈良に春を告げるといわれるこの行事は、大仏開眼の752年から1200年以上にわたり毎年行われているという大変歴史のあるものです。今年で1258回目になります。
この行事は、11人の僧侶(練行衆)が人々に代わって十一面観世音菩薩に過ちを懺悔し、五穀豊穣や天下泰平(現代の言葉で言えば、世界平和)を祈るというもので、旧暦の2月(新暦の3月)に行われることから、「修二会」と呼ばれています。また、約1ヶ月に渡る期間中行われる様々な行のひとつに、「若狭井」(わかさい)という井戸から命の次に大切なものである水「お香水」を汲み上げ十一面観世音菩薩にお供えする儀式があり、その行を勤める練行衆の足下を照らすために大きな松明が使われることから「お水取り」・「お松明」とも呼ばれています。
ちなみにこの若狭井の「お香水」は、オバマ大統領応援ですっかりおなじみになった小浜市にある「鵜の瀬」を水源とし、そこから10日間かけて二月堂の「若狭井」に届くといわれています。小浜では毎年3月2日に、お水取りに先がけて「お水送り」という行事が行われているそうです。
東大寺に行く前に、奈良国立博物館の 特別陳列「お水取り」を見に行きました。
大松明や、仏具や鈴やほら貝、お香水の容器、1667年に二月堂が焼け落ちた際の 焼け跡から発見されたご本尊の光背や経文、行の心得やマニュアル、行の期間の食事の献立表、内陣のレプリカや五体投地の板等が展示されていました。ボランティアガイドの方々が、親切に説明してくださり、行を紹介するビデオもあったので、大変わかりやすく参考になりました。 行のひとつ「五体投地」は、チベット仏教のように地面にひれ伏すのではなく、長い板の上で、ニードロップのように激しく膝を叩きつけるというもので、びっくりしました。「だったん」という、ほら貝や鈴の音と共に松明をもって激しく踊る行もあり、是非見てみたいと思いましたが、特別な許可がないと見られないようです。
5時半頃東大寺二月堂前へ
大仏殿の屋根に落ちる夕日を眺めながら待っていると、六時過ぎには柵(竹矢来)の外まで人でいっぱいになりました。6時半頃にはあちこちから煙が上がり、煙の匂いもたちこめて、いよいよという感じになってきます。
7時、境内の照明が落とされ、待ちに待った松明の登場。重さ約60キロあるという巨大な松明です。(12日にはさらに大きい、重さ80キロ・長さ8mの松明が使用されるそうです。)
二月堂に向かって左側の廊下から松明が上がってきて、二月堂の屋根の左の端で、屋根の高さまで高く掲げられ、回転して火花を飛び散らせ、その後右端まで移動してもう一度高く上げて回転、これが10本繰り返されます。
松明が高く上がると人々から歓声が上がり、回転して火花が飛び散ると、さらに歓声が大きく湧き上がります。 時に火の粉が降りかかりそうになるし、松明のパチパチ燃える音 内部で行われている修行の音にも包まれ、興奮状態になった人々が一体化するような感じでした。 炎には穢れをはらう力や、人の心を沸き立たせる力があるのでしょうか。
一方建物の下では、消防署の人達が、燃えさしを掃き清めたりして、防火活動にいそしんでいました。
火の粉をかぶると無病息災になるといわれているらしいですが、やはり怖いです。また、お松明終了後、燃えさしを拾おうとしている人もたくさんいました。これもご利益があるようです。
お松明のあと、二月堂に上がり、お参りと、内陣での行を拝観することができました。
男性はもっと奥まで入れるようでしたが、女性は「局」という小部屋から息を潜めて格子越しに拝観。 木履(ぽっくり)をはいた僧達が内陣を輪になって回りながら読経していました。
おごそかというより、木履の音が響き渡る、力強さを感じさせる行でした。
水取や 籠の僧の 沓の音 芭蕉
この句に詠まれている行だと思います。
このような大掛かりな、世界平和を願うことにも通じる行事が大仏開眼の年から今日まで続いているという事の尊さと、74年しか都でなかった奈良で生まれた行事を1200年以上続けている人々の信仰心や続けようとする思いが、世界遺産「古都奈良の文化財」 東大寺にいっそうの輝きを与えていることを強く感じました。
建物を見るだけではなく、そこで行われている行事等を見学することで、世界遺産に親しみを持てるようになったとも思いました。
最後になりましたが、お松明を見やすいところから見ることができたり、内陣での行も拝観できたのは、奈良国立博物館のボランティアガイドの方々のアドバイスがあったおかげです。この場をお借りしてお礼を申し上げたいです。どうもありがとうございました。