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● マイスターのささやき:マイスターの弾丸世界遺産紀行 ~パリで年越し編④~

世界遺産検定マイスター 本田陽子

アンニョンハセヨ~~
みなさんGWはいかがお過ごしでしたか?
わたしは、昨年の夏に続き、また韓国へ行ってしまいました。
そして、韓国の世界遺産10件(文化遺産9件、自然遺産1件)を制覇いたしました~!
だから韓国はもう終わり、ということは全くなく、むしろ興味は増す一方です。

今回、韓国初の自然遺産である「済州火山島と洞窟群」も訪ねました。済州島は火山の噴火によってできた島なんですが、今までよく知らなかった火山のしくみや地質学的なことを知ることができて、なかなか面白かったです。世界最長の溶岩洞窟なんてのもあり、1キロほど見学できるのですが、かなりの探検気分が味わえますよ!
わたしはゴルフもしないし、おそらく「世界遺産」という理由付けがなければ済州島に行くことはなかったと思うのですが、訪問したことで、世界遺産たらしめる価値を実際に見て感じることができたのと同時に、世界遺産とはかかわりはなくとも魅力あふれる文化に触れ、温かい島の方々と出会うことができました。
世界遺産とはひとつの入り口であり、きっかけであり、自由な想像力や行動力を持つことで、自分だけの驚きや感動を見つけることが、きっとできます。

……あかん、アツく語っているうちに、パリの思い出がどんどん上書きされている……。
ということで、韓国の旅はいったん置いておいて、パリの旅へ戻ります!

◆ マリア様にささげられた丘の上の大聖堂
朝9時をまわったころ、パリから1時間ほどかけてやってきた小さな到着駅には、駅員以外の人影はほとんどありませんでした。その日は大晦日だったんですが、そうした喧騒とは無縁の静けさが漂う街でした。駅から少しはなれたところに、教会の2つの尖塔が見え隠れしていたので、地図がなくともたどりつけそうです。坂道を登って10分もかからずに広場にでると、巨大な、だけどケルン大聖堂のような圧倒感とはまた違う、やわらかな表情をもった大聖堂が現れました。360度、周囲にほかの建物が隣接していないので、丘の上にひとつだけぽつんとたたずむさまは、孤高さすら感じさせます。

その教会のステンドグラスは、世界で一番有名かもしれません。
バラ窓やステンドグラスの、清廉な青色のガラスを通過した光は、教会内部を荘厳に包み込み、中世の時代より、ひとびとを神の世界へといざなってきたことでしょう。
神に最も近い、その美しき青は、こう呼ばれました。――シャルトル・ブルーと。
ここは、シャルトル大聖堂。

シャルトル大聖堂には、聖母マリアがキリストを出産したときに身に着けていたというヴェールが納められています。9世紀に国王より寄進された、大切な宝物です。カトリック教会において、キリストや聖母マリア、聖人の遺品や遺骨は「聖遺物」といい、奇跡を生む力があるとして崇拝の対象となっています。特に中世ヨーロッパでは、聖遺物を奉安する聖堂や修道院は、畏敬の念を集め、巡礼する人々を多く集めました。これって仏教でいう仏舎利みたいなものなのかしら?
ともかく、聖遺物は、それを所持する聖堂のブランド力を高めるのに絶大な力を持ったようです。
その後、大聖堂は焼失と再建を繰り返しているのですが、11世紀には「ロマネスク様式」の大聖堂が建てられました。ロマネスク様式とは、教会が、徐々に高さを追求し始めた頃の様式なのですが、まだ建築技術がおいつかず、壁が厚くて窓もあまり大きくないことが特徴です。(壁で建物の重さを支えるために壁の重厚感が増し、窓などの開口部も広くとれなかったわけです。)ですから比較的造りがシンプルで、ずんぐりむっくり型とでも申しましょうか。
その後、またもや12世紀末に大火事が起こり、大聖堂はほとんど燃えてしまったのですが、ヴェールは奇跡的に焼失をまぬがれました。それがますますマリア信仰に拍車をかけたことは想像に難くありませんし、教会再建のモチベーションとなりました。
その当時、フランスでは教会建築において、建築技術の向上に伴い「ゴシック様式」が取り入れられるようになっていました。神に近づくために、どんどん上へ上へと高くなっていったのです。鋭い尖塔を持つ教会が多く、日本人がヨーロッパの教会としてなんとなくイメージしやすいのは、ゴシック様式のものかもしれません。シャルトル大聖堂の尖塔においては、西正面のむかって右側はロマネスク様式で、左側は、後の時代に建てられたゴシック様式となっています。

ところで、シャルトル大聖堂の正称は「ノートル・ダム大聖堂」です。「ノートル・ダム」とはフランス語で「私たちの貴婦人」、つまり聖母マリアを示しており、この聖堂はマリアに捧げられた聖堂、ということになります。
ここで、「あれ?ディズニーの映画で『ノートルダムの鐘』ってのがあったけど、あれはパリの話なんじゃないの?」って思った方もいるかもしれません。それも正しいんです。つまり「ノートルダム」とはどこかひとつの教会の固有名詞ではなく、あちこちにあるマリアに捧げられた教会のいずれもが「ノートルダム」なんですね。

◆ 読み解けないステンドグラス
……と、日曜18時の某番組のナレーションもどきでかっこつけて、いろいろウンチクを述べましたが、その日は残念なことに薄曇り。ガーーーン。
そして、正面玄関の3つの入口を飾る彫刻の装飾は、「ゴシック彫刻の最高峰」と言われているのですが、なんと左側の入口を除いた残り2つの入口は門で封鎖され、近寄ることができなくなっていました。ガーーーン……。


どうよこの曇天っぷり。


入口(左、中央、右のどれだか思いだせない・・・)のタンパンの彫刻を大きめに撮ってみました。……人間の体の縮尺が変だし、なんか、ほのぼのしてて笑っちゃうんですが。

さらに聖堂内部に入って、アゼン。内陣(祭壇を設置している奥の部分)には天井まで届く大きな囲いがあり、工事中でまったく中がうかがえないのですがああ~~~。しかも西側のステンドグラスには鉄骨が組まれていて、よく見えないし。
教会に射し込む光が弱く、かつ覆いでステンドグラスがいくつもふさがれてしまっているため、聖堂の内部はだいぶ薄暗く、「シャルトル・ブルー」のガラスそのものを見ることはできても、そこを通過した光に包まれることはできませんでした。

まあしかたなかろう、と気をとりなおし、ステンドグラスをじいいっと凝視してみました。ステンドグラスは、かつて、文字が読めない民衆のために聖書の物語を絵解きしたものです。絵解きとはいえ、絵本のようにわかりやすいかというと決してそんなことはなく、聖書の知識のベースがないものにとっては、さっぱりストーリーがわかりません。
そして、ステンドグラスはかなり高い位置にはめ込まれており、目線からの距離がけっこう遠いので、上方になると何が描いてあるのかよく見えません。昔の人は、これを見て理解して、「おおキリストすごい!」と感動していたんでしょうか……?
ステンドグラスの読み解き方ってけっこう複雑です。
下から上に行くストーリーと、中央の円の中をつなぐストーリーがそれぞれ進行しつつ、かつ、二つの物語はクロスしている……ってどんだけ高度やねん!!


三脚なしでなんとか撮ってみました。雰囲気伝わるかな?

わたしはかのシャルトル大聖堂にいるのだぞ、と、感動モードに自分を持っていこうとしましたが、工事やら天候やらの影響なのか、勉強不足がたたったのか、どうにも消化不良に終わってしまいました。工事は2015年末ごろ終わるようなので、それからまた再訪問かしら……
とはいえ、12、3世紀のステンドグラスが、フランス革命や戦争の被害からも免れ、非常にいい状態で保存されているのいうのは、奇跡に近いことのようで、それを目にすることができるというのは、とても幸せなことだと思いました。
ところで、シャルトルの街は小さいのですが、教会の少し先にかわいらしい繁華街があります。時間がある方は、ぶらぶらしてみてくださいね。

◆ サント・シャペルでステンドグラスをもう一度
シャルトル大聖堂で消化不良におわったステンドグラスですが、パリでリベンジを図ることとしました。
パリは、「パリのセーヌ河岸」として、河岸の5キロほどのエリアが世界遺産として登録されています。パリはセーヌ川の中洲にあるシテ島(ノートルダム寺院がある島です)が発祥の地とされており、徐々に周囲に拡大しながら発展していったので、河岸には、フランス史上重要な建築が立ち並んでいます。
「パリのセーヌ河岸」の構成資産のひとつである「サント・シャペル礼拝堂」もシテ島にあるんですが、ステンドグラスが窓の全面に施されているというじゃありませんか!これは期待できそうです。
この礼拝堂は、先程おはなしした聖遺物とやはり関連があるのですが、ルイ9世(13世紀のフランス王)が、キリストが身につけたとされる茨の冠を含む聖遺物を購入し、それを保管するために建てました。ゴシック建築の代表とされています。
その聖遺物のお値段……
国家予算の半分以上でございます!!!
どーなってんだよ……
(ちなみに教会の建築費用は聖遺物の3分の1以下でした)

入場時はかなりの行列だったんですが、ミュージアムパスのおかげでほとんど並ばずに入場できました。
この礼拝堂は、王宮とつながっており、つまりは、王が聖遺物に祈りを捧げるためだけに作られたということです。2層構造になっていて、まず1階の、使用人のための礼拝堂へ先に入ります。
光も入らなくて、ちょっと重々しい感じです。
そして2階へと階段を上っていくと……

もう息を飲むとはこのことでしょう!
わたしの稚拙な説明をお聞かせするのが申し訳ないくらいの、圧倒的な美しさでもって、ステンドグラスに取り囲まれるのです。
そう広くもない空間に、ものすごい人が見学しているのですが、天上の美しさは、下界にいる有象無象の人間たちとはまったく無関係に、輝きを放っていました。
サント・シャペルはいうなれば、聖遺物を安置するための、それ自体が美しい装飾でもって作られた巨大な宝石箱、ということなんでしょうね。


ステンドグラスとの距離も近いし、日本語の解説下敷きもあるし、ここはお勧めです!

◆ パリのカウントダウンの都市伝説
ところで……わたしは旅に出る前に、短い準備期間ながらも「ベルばら」を読んだり文献をあさって予習をしていったんですが、その合間に、ネットで、聞き捨てならないニュースを目にしたのでした。

「パリのカウントダウン……輝くエッフェルをみながら、みなシャンパン片手に乾杯し、ニューイヤーになった瞬間に、だれもかれもが、目をあわせればキスをする」……

おいおいおい!!世界遺産を訪問するのと同じ、いやもしくはそれ以上のテンションでもって、この都市伝説を確認せねば、というミッションが深くわたしの脳に刻み込まれたのでした。

そして大晦日夜。22時過ぎに、宿のメンバー8人ほどで連れ立って(ちなみに私を含め、ほとんどみんな一人でやってきた人たちです)、ワインをたくさんかかえてメトロに乗り込みました。メトロの中は異常なハイテンションです。みんな興奮して奇声を発して、どうみてもマトモじゃない。そして、隅田川の花火大会もびっくりの大混雑ぶり。カウントダウンの瞬間に、地下構内から出れないんじゃないの?なんて懸念もありましたが、日をまたぐ前になんとか地上へとたどりつきました。目の前にはエッフェル塔が光り、たくさんの人が立ち尽くしています。
エッフェル塔は、いつもパリに寄り添ってそこに存在しているのに、どうして姿かたちが見えるだけでこんなに胸がときめくんでしょう。

「カウントダウンはやっぱりフランス語だよねー。3,2,1ってなんていうんだろうねー」なんて話してたら、突然、エッフェル塔がきらきらっとダイヤモンドのように光を放ちました。
……ぽかーん……
カウントダウンもなく、打上げ花火もなく、いきなり新年を迎えてました。
ともかく、一緒にいるメンバーたちと乾杯です。
ところで、ワタクシのミッション、「だれとでもチュー」ですが、そんなことをしてる人はひとっこひとりおりませんでした……。あっれ~~?ただの都市伝説だったの!?いやべつに、いいんですが……


エッフェル塔ビフォーアフター。1枚目は0時前、2枚目は新年を迎えた瞬間です。(何の合図もなし……)。たくさんの人・人・人……

◆ カウントダウン後の×××問題
その後、みんなで3時間ほど、屋外でずーっとワインを飲みながら、周囲にいたフランス人も巻き込みながら、浮かれておしゃべりしてました。
……し、しかし、そろそろトイレにいきたくなってきたんですが。
もう宿に戻るというほかのメンバーと別れて、わたしは、視界に入ったカフェに駆け込みました。
「オタクのトイレを貸してくれないかしら!!」と勢いよくお願いしたところ、明らかに一晩中オープンしてそうなそのカフェのギャルソンに「クローズ!!」と拒否されました。
正面きってトイレを借りちゃいけないのね、と学習し、かなりシンドい状況になってきたのですが、別のカフェに駆け込み、エスプレッソをオーダーして3ユーロをカウンターにたたきつけ、5秒で飲み干してトイレに突進しました。5人ほど並んでましたが、地獄を見ました……
(こんな話、世界遺産アカデミー的に大丈夫かいな……)
ようやく一仕事終え、メトロに乗って、ひとり帰宅の途につきましたが、ふと気づくと、往路のときより輪をかけて雰囲気が悪くなっている・・・目の前の女性2人組は、しつこいくらい酔っ払いにからまれています。
早く降りたいなあ、と思ってたらやっと宿の最寄り駅に到着……しない……。え??なに??
無情にも、電車は、最寄り駅をスルーしてさらに2つ先の駅でようやく止まったのでした。要領を得ず、また同じ路線で乗ってきた方向に戻りましたが、またもやスルー。弱小駅はすっとばされるってことかしら?
そこから、へとへとになりながらなんとか宿に帰りました。
宿についたら、まだ飲んでる人がいたので加わって、ようやく6時頃眠りにつきました。
あーえらいカウントダウンだった……。その後、また別の場所でもトイレ問題が起きるんですが、それは次回に。

えっと、世界遺産とは一見なんの関係もないカウントダウンの話ですが、実は、世界遺産であるエッフェル塔(「パリのセーヌ河岸」の構成資産のひとつです)を見ながら新年をむかえたってことで、マイスターの面目躍如ってことにしてください。(すいません、いまこじつけで思いつきました)

次回はようやく最終回です。夏になる前になんとか書き上げたいと思います。
アンニョン……じゃなかった、Au revoir……