● マイスターのささやき:モロッコを旅して ③
世界遺産検定マイスター 根本潤子
アッサラーム アレイコム! みなさま こんにちは。
1か月のご無沙汰でした。
モロッコの旅の3回目。前回に引き続き、フェズの手仕事をご紹介して、
サハラ砂漠を目指します。
フェズは、古くから都として栄えてきたので、様々なジャンルの職人さんが、
機械ではなく手仕事にこだわり、現役で活躍中です。
*真鍮細工:王宮のドアに始まり
ミントティー用のプレートまで、
モロッコの人たちが見ない日はない、手仕事の1つ。
デザインの下絵はなく、いろいろな形の細い金型を
カンカンとリズミカルに打ち付けながら、模様を作り出し、
ゴージャスに仕上げます。
*バブーシュ:タンネリでなめされ、色づけされた皮革から、
丁寧な作業で生み出される、モロッコの伝統的履物。
「バブーシュ」はフランス語で、アラビア語では「ブルガ」と
呼ばれています。バブーシュの起源はペルシャだそうです。
手仕事で成形され、太い針で1針1針しっかり縫合されたものは、とても丈夫。
先の尖ったものは、アラブスタイル。先が丸いものや、刺繍やビーズの付いたものもあり、
かわいいデザインもあります。
スリッパタイプで着脱が簡単なため、1日5回のお祈りには大変便利。
私も購入しましたが、出来立てのバブーシュはニオイがとても強く、
10日くらい屋外に干してからの使用でした。
毎日素足で履いていますが、だんだん足に馴染み、履き心地抜群です!
*ゼリージュ:モロッコの街を歩くと、必ず目にするのがゼリージュ。
カットされたタイルを組み合わせて作る、モザイクのこと。
古くは中東でも盛んだったそうですが、現在残っているのは、モロッコだけとのこと。
金槌で、タイルを決まった形に割る作業の正確さに、目を見張りましたが、
ピースの組み合わせは無限なので、1つとして同じゼリージュはないのです。
*フェズ陶器:モロッコ料理のタジン鍋やハリラボウル(スープカップ)など日常で使う食器。
足で動かすろくろで成形し、登り窯で焼きます。
カラフルな色づけのものもあれば、フェズブルーと呼ばれる、
コバルトブルー色の繊細なアラベスク模様を施したものもあります。
続いて、モロッコのスイスと呼ばれる、イフレンへ。
今まで眺めていた、ナツメヤシやオリーブではなく、林にうっそうと囲まれた街。
小川が流れ、切妻屋根のペンション風の家々が建っています。
ここは、本当にモロッコ?
首をかしげたくなる様な、ヨーロッパリゾートの佇まい。
標高1650m。冬には、雪で覆われるほどの高地で、スキー場もあります。
真夏でもひんやりしているので、フランス統治時代に保養地として人気になりました。
絶滅したアトラスライオンが生息し、アトラス杉も多かったとのことです。
ここの樹齢900年のアトラス杉が、フェズのマドラサの壁面を覆っていたのを思い出しました。
車窓の眺めで、街があれば学校もあります。
モロッコの教育制度は、日本と同じ6-3-3制で、小学校は義務教育。
高校に入る前に、文系・理系の選択をするのは画期的で、仕事を得やすい理系が大多数だそうです。
おまけに、高校では全学年でコンピュータの授業があり、大学進学する生徒は高校3年の段階で、
大学入学資格試験を受験するのは、驚きました。
学校は月曜から土曜まであり、8時~11時、14時~18時。昼食は、各自自宅に戻って食べるの
ですが、低学年の子どもは母親が迎えに来ます。安息日の金曜も学校はあり、午後は15時からと
昼休みが長く、土曜は午前授業のみ。
放課後、連れ立って遊ぶ姿は万国共通ですが、サッカーをするのもこの広さ。
うらやましくもあるのですが、ボール拾いが大変そう!
さらに、標高2170mのザード峠を越えて、アトラス山脈の麓の街、ミデルトへ。
「ミデルト」は、モロッコの中心という意味。
リンゴの産地でも有名で、街のロータリーもリンゴのオブジェが。
この街では、外国人観光客がオーダー出来たアルコールが全く無し。
そこで、リンゴのサイダーいわゆるシードルを注文。
青森でもモンサンミシェルでも飲んだっけ、、と1口。
確かにリンゴの風味はするけれど、何だか変!!
口に残る、ほこりっぽいというか砂ぼこりのような風味が気になります。
マズイというわけではないけれど、ウ~ン、何ともモロッコらしい味 としておきます。
夕方近くに、サハラ砂漠の観光拠点のエルフードへ到着。
今では砂漠となっているサハラも、大昔は海底だったことを示すように、
今でも塩が噴出している所があり、サハラ特有の赤い砂ではなくそこだけ白くなっています。
あちこち掘ると、4億5000万年前の古生代のアンモナイトや三葉虫の化石が今でも顔を出します。
私が一番見たかったのは、「砂漠のバラ」と言われるもの。
硫酸カルシウム(カルシウムの硫酸塩の結晶)にサハラの強い風で巻き上げられた砂が一体化して、
バラの花のようになったもの。お土産に購入しましたが、本体は塩なので見た目以上に重かったです。
モロッコツアーのハイライトは、サハラ砂漠で見る日の出か夕暮れ。
ここから、ベルベル人のお世話になるので、ちょっとご紹介します。
ベルベル人の先祖は、タドラートアカクスやタッシリナジェールなどの石器文化を築いた人々と
考えられていて、チュニジア周辺から北アフリカ全域に広がったとみられています。
総人口は1000万人~1500万人。東はエジプト西部の砂漠地帯から、モロッコ、アルジェリア、
リビア、チュニジア、モーリタニア、ニジェール、マリにも広がっています。また、ヨーロッパに
移住した300万人は、フランス、オランダ、ベルギー、ドイツに居住するほか、カナダのケベック州にも
居住しているそうです。
砂漠観光のため、ラクダに乗って日の出を見るツアーや、夕日を見てベルベル人キャンプに泊まるツアーが
ある一方で、ラクダなどを商品とする隊商を組んだり、オアシスを移動しながら農耕もします。
強烈な日射しから身を守ると言われる藍で染めた衣服の色が、顔や額に付き、青くなることから
ブルーマン=青い人と呼ばれることもあるそうです。青い衣は、ベルベル人の象徴となっています。
文化の交流や融合するきっかけだった隊商(キャラバン)も、近頃では、携帯電話で仲間と連絡を
取り合い、気候の変化、種を蒔く時期や砂漠の移動などの情報交換の場になっているとのことでした。
さて、いよいよ「サハラ砂漠で日の出を見るツアー」です。
ホテルから4WDで荒れ地を激走すること50分。真っ暗な道なき道を突き進みます。
もちろんドライバーは、ベルベル人の青年。ラリーカーの運転そのものです。
モロッコと言えども、日の出前は寒く10℃くらい。
北極星と北斗七星がきれいに光ってました。
ラクダ達が待機する、ベースキャンプに到着。
一人1頭のラクダが割り当てられます。
行きと帰りは、違うラクダに乗らないように、とか、
担当するベルベル人の顔を覚えて、と言われても、
外は、街の灯りが全く無い、夜明け前のサハラ砂漠。
真っ暗、、、。
自分の(今だけ)ラクダが決まる時は、
ちょうど新学期の席替えの様なドキドキ感。
いざ、出発!
ラクダは立ち上がる時、まず前足、次に後ろ足と順に立てていくので、
振り落とされないように、バーを必死に掴みます。
たまに、落駄(らくだ)する人が、本当にいるそうです。
高さはかなり高いけれど、コブに寄り掛かるように座り、
ラクダの動きに体を預けると乗りやすい。一歩一歩ゆっくり進むうち、
次第にラクダの体温が上がり、まるで床暖房のようにポカポカ。
気持ち良くて、だんだん眠くなってしまいます。
見渡す限り“砂の世界”。
聞こえて来るのは、ラクダが砂に足を入れる音と砂漠を吹き抜ける風の音だけ。
あまりの静寂で、人はみんな無口に。
夜明け間近のグラデーションは、刻々と変化していくので、
この一瞬を目に焼き付けなきゃ。
とうとう、ラクダも進めない砂丘の麓に到着。
ラクダを降り、四つん這いになりながら、
ベルベル人の手も借りながら、砂丘をよじ登りようやく頂上へ。
ベルベル人のお兄さんたちが手際よくカーペットを敷き、
そこでひたすら、夜明けを待ちます。
だんだん空が白み、地平線に赤みが増し、とうとう日の出。
また1日が始まる。
日が当たり始めると、砂の色がサハラ特有の赤い色に変わります。
この瞬間、誰もがカメラマンになりきるのですが、
サハラの砂は大変細かく、カメラ・携帯などに砂塵が入り込むので要注意。
たいてい、1つのツアーで3~4人は壊れるらしいのです。
今後行かれる方は、ラップ+ジップロックで完全防備をお忘れなく!
日が昇り切ると、ベルベル人のお兄さんが順番に写真を撮ってくれました。
それからまた、砂丘の頂上からラクダの所まで降ります。
この間中、ずっとおとなしく座って待っているラクダ達がけなげでいとおしい。
ラクダに乗ったところを撮ってくれたので、とても喜んだら、
後ほどしっかり、追加のサービス料を請求されてしまいました。
砂漠の民も、生きていく為には仕方ないのだけれど。
ラクダのベースキャンプに戻り、ベルベル人のテントの中で、ベルベルスタイルの朝食。
フレッシュなオレンジジュースやミントティー。ホブスというパンやクレープ、チーズ等。
シンプルだけど、美味しいメニュー。
キャンプ好きの私は。妙に懐かしさを覚えました。
サハラの砂は、赤く美しいけれど、素足は厳禁!
小さな虫、サソリや蛇がいるので、必ず捨てても良い靴下と
すぐに砂を出せるサンダル(クロックス型)がとても便利です。
4WDに戻る時、フンコロガシ(スカラベ)を発見!
映画のハムナプトラを思い出しました。
旅をして、人生観が変わるとよく聞きますが、確かに納得。
サハラ砂漠の漆黒の闇と無音の世界は、今までにない体験。
広大な砂漠を前に、日常の雑事などは、ほんのちっぽけな事に思えました。
次回は、ワルザザードの映画村、アイット・ベン・ハドゥ、マラケシュへ。
いよいよラストにつき、モロッコ料理もご紹介します。お楽しみに!
シュクラン! ありがとうございました。
<続く>