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● マイスターのささやき:Hello from LONDON No.1

マイスターのささやき マイスターのささやき
(2014-12-12更新/ WHA 秘書

皆様、こんにちは。世界遺産検定マイスターの鈴木真紀です。

前回は、世界文化遺産登録直前の、『富岡製糸場と絹産業遺産群』見学レポートを
掲載していただきましたが、お読みいただけましたでしょうか?
6月には正式に登録が決定し、本当に嬉しい気持ちでいっぱいです。

さて、私事ですが、7月29日にロンドンへ引越しをいたしました。
以前、23年間も生活していた街ですので、第二の故郷です。
とは言え、以前の家は処分してしまったので、今回はまた一からの再出発です。
最初は友人宅に泊まらせてもらい、
8月7日に小さなフラット(日本のアパートやマンションのこと)を借りて入居しました。
まだインターネットもつながっておらず、不自由な生活です。
これからは、ロンドンはもちろん、英国やヨーロッパ大陸の世界遺産について、
皆様にお伝えしていきたいと思っています。

8月と言えば、「原爆の日」、「終戦記念日」など、第二次世界大戦で失われた尊い命を想い、
二度と同じことを繰り返さない、という決意を新たにする時期ですね。
世界文化遺産の『広島平和記念碑(原爆ドーム)』は、「負の遺産」として知られています。
「負の遺産」とは、人類が過去に犯した過ちを記憶にとどめ、教訓とする遺産とされています。
(世界遺産アカデミー発行:世界遺産大事典より引用)
我々日本人は、世界で最初の(願わくば、最後の)被爆国の国民として、
核兵器廃絶を世界中へ発信し続けています。
戦争はまた、尊い命ばかりでなく、多くの文化財をも破壊してきました。
そして、残念なことに、今もまだ世界の平和は実現していません。

今日は、私がロンドンへ来て、ほんの数日後の8月4日の出来事を皆様にお伝えしたいと思います。
8月4日は、英国にとって、第一次世界大戦の開戦100周年の記念日でした。
英国人は第二次世界大戦より第一次世界大戦で亡くなった人の方がはるかに多く、
戦没者慰霊祭も、第一次世界大戦の終戦記念日である11月11日に近い、日曜日に毎年、行なわれています。
英国は、1914年8月4日の午後11時にドイツに宣戦布告して、第一次世界大戦に参戦しました。
開戦100周年記念日の夜、全国で「Light Out」というイベントが実施されました。
宣戦布告の時刻までの一時間を暗闇の中で過ごし、大戦で亡くなった兵士や、一般の人々に思いを馳せるというものでした。
これは、当時の外務大臣であった、エドワード・グレイ氏が、
ヨーロッパ中の灯りが消えていく。我々が生きている間に、この灯りが再び灯されることはないだろう
と口にしたというエピソードにちなんで、企画されたものです。

世界遺産のウェストミンスター・アビーには、「無名戦士の墓」があります。
埋葬されているのは、第一次世界大戦で命を落とした、名前も階級も分からない一兵士であり、
この墓が、大戦で命を落とした888,246名の英国と英連邦の兵士すべてのお墓の象徴ともなっています。
アビー内で行なわれた式典では、同寺院内に灯されたろうそくが一つずつ消され、
最後に「無名戦士の墓」に置かれたランプの火が、
午後11時にビッグベンが午後11時の鐘を鳴らしたのと同時に、チャールズ皇太子妃カミラ夫人によって消されました。
各家庭や公共の建物においても、イベントに賛同した人々が、午後10時に消灯し、
英国がドイツに宣戦布告した午後11時までの一時間を、ろうそくの小さな灯りだけで過ごしました。
普段ライトアップされる建物も消灯され、国中が闇に包まれました。
私も、友人の家で、ろうそくに火を点けてもらい、暗闇の中で、世界の平和を祈りました。
ふと、窓の外を見ると、廻りの家のほとんどに電気が点いていないことに気がつき、
多くの人々が共通の意識を持ち、個々の家でイベントに参加していることに感動を覚えました。

こちらの写真をご覧下さい。世界文化遺産の「ロンドン塔」です。


周りを取り囲む堀に、無数の赤い花が植えられているのをご覧になられるでしょうか?
これも、同じく第一次世界大戦開戦100周年記念のイベントのひとつで、赤いけしの花の、造花が植えられています。
赤は兵士達が流した血の色を表し、大戦で焼け野原になったヨーロッパの土に、
無数に咲いた、けしの花が彼らの鎮魂の花とされてきました。
先月、最初の1本が植えられて以降、どんどん増やされており、11月11日の終戦記念日までには、
亡くなった兵士の数である888,246本の赤いけしが植えられることになっています。
いつもとは違った「ロンドン塔」の様相です。
平和のとりでそのものだと思いませんか?

戦争は人の心の中に起きるものだから、
人の心の中にこそ、平和のとりでを築かなければならない。

(—ユネスコ憲章前文より)

一人一人にできることは限界がありますが、力と知恵を集めれば大きなものになります。
これからも一緒に世界遺産を守っていくお手伝いをいたしましょう。

世界遺産検定マイスター 鈴木真紀