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● マイスターのささやき:Hello from LONDON No.4

皆様、こんにちは。マイスターの鈴木真紀です。しばらくご無沙汰しておりました。

いつの間にか季節は移り変わり、ロンドンはクリスマスのイルミネーションがとてもきれいです。イギリスの冬は、太陽が出ることが少なく、どんよりしていますし、冬至まではどんどん昼間の時間が短くなりますが、イルミネーションのお陰で華やいだ気分でいられます。イエス・キリストの生誕が12月25日であったという記録や証拠はないそうですが、冬至の直後、少しずつ日が長くなり始める12月25日を生誕の日として、「世の光」であるキリストをお祝いしようということになったという説が有力です。

さて、私の方は、今のアパートに一旦落ち着いた後、家探しをしまして、気にいった家が見つかり、12月中旬までには引越しができる見通しとなりました。今まで、夏に飛行機で運んできた衣類と、こちらで友人から借りたり、買ったりした最小限の家具や食器で生活していましたが、やっと日本から船便で送った引越し荷物も受け取れそうです。2008年に日本へ帰国してから、今回夏にロンドンへ戻ってくるまでの6年の間に不動産価格は50%程も上がっていて、本当にビックリしました。ロシアや、中央ヨーロッパ、中国の投資家達によって、全体の価格が高騰したこと、家の絶対数が足りないことなどが主な原因です。ロンドンの人口は、この3年ほどの間だけでも25万人ほど増えています。EU諸国からの移民が多く入って来ているからです。新しい住宅を建てる余地もほとんどなく、需要と供給のアンバランスが価格の上昇につながっているようです。

そんな訳で、私も家探しには本当に苦労しました。ようやく見つけた家は、ロンドンの北西の端に位値していて、とても緑が豊かな地域にあります。小さな家ですが、主人と二人なので、どうにか暮らせそうです。ロンドンへお越しの節には、ぜひ、お立ち寄り下さい。

9月下旬からは、仕事にも復帰しました。私のイギリスでの職業は、英国公認観光ガイドです。別名ブルーバッジガイドと呼ばれています。ありがたいことに、以前ガイドの仕事をしていた旅行会社が歓迎して下さり、復帰することができた次第です。復帰以降、ロンドンの世界遺産はもちろんのこと、カンタベリー、バース、ストーンヘンジなどへも、すでにお客様をご案内しました。また、大映博物館でエジプトの説明をする際にはアスワン・ハイ・ダム建設時の事にも触れ、世界遺産誕生秘話をお話するようにしています。世界遺産検定で勉強したことが、ガイドの仕事にも大いに役立っています。

英国には、現在28件の世界遺産があります。9月に世界中が注目したスコットランドの独立問題がNOの結論となった結果、これまで通りの数を保っています。そのスコットランドのすぐ北に位値している、オークニー諸島へ行って来ました。来年出版されるスコットランド関連の本の中に原稿を書くことになり、その取材旅行でした。オークニーには、「オークニー諸島の新石器時代遺跡中心地」という世界文化遺産があります。4つの資産によって構成されており、そのすべてを廻って来ました。

そのうちのひとつ、メイズ・ホウは、お椀形の墳墓で、鍵がかかっている為、ビジター・センターの担当ガイドに案内してもらわなければ、中には入れません。毎時ちょうどの時間に始まるガイドツアーの定員は25名で、夏は予約をしておかないと入れないこともあるそうですから、必ず事前予約をしてお出かけ下さい。私は、11月中旬のシーズン・オフに行ったということもあり、朝一番の10時のツアーに1人参加で見学をすることができました。

内部の写真撮影は禁止されていたので、外側の写真しかお見せできませんが、冬至の日に沈む夕日が入り口からまっすぐ奥に届くように設計されているそうです。これは、アイルランドの「ボイン渓谷の考古遺跡群」にある、ニューグレンジにも共通点があります。大型石室墓に冬至の夕日がまっすぐに届くようになっているのです。いずれも、およそ5000年前の人々にそれだけの天文学的知識があったことに驚かされます。


北国の英国では、夏と冬の昼間の長さの違いは日本よりもずっと極端です。ロンドンのような、英国の南に位置している場所でさえ、このことを実感できます。ましてや、高緯度のオークニーでは、朝完全に明るくなるのが8時半過ぎ、そして、午後4時半には真っ暗になっていました。あと一ヶ月たち、冬至の頃にはもっと早く暗くなるでしょう。でも、ひとたび冬至で折り返すと、今度は目に見えて日が長くなります。

古代の人々にとって、日の長さは、農耕生活や狩猟生活に欠かせない情報であり、特に冬至は「これから日が長くなる基点」ですから、大変重要な日と位置づけられていました。実は、ストーンヘンジにおいても、最近同様の新説が出て、定着しています。つまり、ヒールストーンから夏至の日に日が昇ることよりも、冬至の日にヒールストーンのあたりからストーンヘンジの中央部の方向を見て、その先の南西方向へ日が沈んで行くことの方がはるかに大切なことだったという訳です。現代人の我々でさえ春になってクロッカスや水仙が咲き始め、桜、菜の花、マロニエなどの花々が咲き乱れるのを本当に心待ちにして冬を過ごすのですから、古代の人々にとっては、冬至は、「春の訪れ」のサインとして、本当に大事なことだったと確信します。

オークニーの世界遺産を構成する資産は、この他、リング・オブ・ブロッカー、ストーン・オブ・ステネス、そして、スカラ・ブラエです。リング・オブ・ブロッカーはイギリスで3番目に大きな環状列石です。スートン・オブ・ステネス共々、入場無料であり、石のそばまで近づくこともできるので、臨場感たっぷりです。オークニーは風がとても強くて、そのせいであまり樹木が育ちません。それで、太古より、木造ではなく石造りの建造物が作られました。見学中も、幸い雨には降られなかったものの、吹き飛ばされそうなほどの風との戦いでした。それにしても、5000年も前の人々は、なぜ、強風が吹きすさぶ、北国のオークニーに住んだのでしょうか?もっと暖かい所に住んだ方が楽だったのではないかしら?そんなことを考えながら、見学を続けました。他に見学者がいなかったので、自分で自分を写した写真ですが、ご覧になって下さいね。

スカラ・ブラエの写真は、世界遺産大事典(下)にも載っていますが、私が撮った写真を一枚載せました。イギリス最古の村で、いろりやベッド、棚なども据え付けられた住宅群の遺跡です。19世紀中頃に、嵐の強風によって、上にかぶさっていた砂が吹き飛ばされて発見されたというものです。嵐のあとに、このような遺跡が出て来たら、興奮してしまいますよね!

オークニーには、世界遺産ばかりでなく、自然の美しさや、美味しい食べ物など魅力が一杯です。放牧が行なわれており、ビーフ、ラム、ポークなどのお肉、また、シーフードもとても新鮮で美味しいです。限られた滞在中、何を食べるか迷った結果、ビーフのステーキと、カニを食べました。いずれも大満足のお味でした。


ロンドンからは、まずアバディーンまで飛んで飛行機を乗り換え、オークニー諸島のメインランド島にある、カークウォール空港まで行きました。スコットランドからフェリーで行く方法もあります。いずれにしても、便は良くありませんが、機会があれば、ぜひ、行ってみて下さい。

それでは、皆様、今日はこのへんで。素敵なクリスマスと、良いお年をお迎え下さい。
2015年もよろしくお願い致します。

世界遺産検定 マイスター 鈴木真紀