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■ 研究員ブログ38 ■ 富士山と鎌倉、ICOMOSの勧告雑感<前編>

昨夜遅く、ICOMOSからの勧告が出ましたね。

四段階の勧告「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録」のうちで、
富士山が「登録」勧告、鎌倉が「不登録」勧告でした。

富士山は世界遺産登録に向けて大きな前進です。
おめでとうございます!
一方の鎌倉にはちょっと厳しい勧告です。

■ 三保松原と芸術性
富士山は今回、三保松原を除いて登録、という
条件付の登録勧告でした。

そもそも富士山は、昨年のICOMOSの調査を経て、
今年2月に名称の変更と三保松原の除外が要請されています。

この時にICOMOSが例として出した名称が
「富士山およびその関連巡礼遺産群」です。

富士山は世界遺産登録を目指すにあたって、
「信仰」と「芸術」をその中心的価値としていますが、
三保松原は、まさにその「芸術」の価値を証明する資産でした。

つまりICOMOSの要請、
「信仰」に重点を置いた名称変更案や三保松原の除外、からは、
ICOMOSが富士山の「芸術」の価値を
あまり評価していない可能性を感じてしまいます。

文化庁はそれを受けて、
名称を「富士山と信仰・芸術の関連遺産群」に変更する一方で、
三保松原は富士山の芸術的価値を証明するのに欠かせない資産として
そのまま含めるという回答をしました。

最終的なICOMOSの勧告では、
結局、三保松原の価値は評価されず、
当初の要請のまま、三保松原の除外が登録の条件となりました。

ICOMOSはそれに加えて、
2016年までに名称を、精神性や芸術性を反映するようなものに変更することも
求めています。

富士山が今後、三保松原を含めるためには、
富士山の芸術性、具体的には登録基準(vi)の価値の証明を、
再度大きく練り直す必要があると思います。

■ 三保松原は遠い?
ICOMOSは今回の勧告で、三保松原は富士山から45kmも離れており、
富士山の一部として考慮することが難しい、としています。

しかし、構成資産が離れていることは他の世界遺産でもあることですし、
資産間の距離の長短が今回の本質的な問題ではない気がします。

ここで考えられるのが、「景観」の問題です。
富士山は文化的景観としての世界遺産登録を目指していますが、
「景観」を遺産の価値とする場合、
資産そのものやその周辺のバッファーゾーン(緩衝地帯)だけではなく、
世界遺産の範囲外である場所を景観としてどう保全してゆくのかが
重要になってきます。

今回の三保松原の場合、
三保松原から見た富士山の景観の価値を保全するためには、
三保松原と富士山の間にある、世界遺産ではない普通の住宅地や都市部を
どのように世界遺産の価値を壊さないものとして残してゆくのかが、
大きな課題となります。

世界遺産の範囲外は、基本的には世界遺産の保全と関係がないので、
世界遺産の価値を守るために都市開発を規制する、ということを
強制するのが難しくなります。
しかし、登録範囲に関係がないからといって
そこで遺産価値を壊すような形の都市開発が行われれば、
世界遺産の保全に大きな脅威となります。

つまり、「景観」を遺産価値とする場合、
世界遺産に登録されている地域以外の保全も
考慮せざるを得なくなってくるのです。

実際に、今年の『紀伊山地の霊場と参詣道』の保全状況報告書では、
世界遺産登録範囲外、世界遺産の隣接地域の住宅の建て直しが
景観保全における懸念材料であると報告されています。

世界遺産の推薦書には、遺産の保護管理計画を含む必要があります。
今回、三保松原の除外が要請された背景には、
こうした資産間の、世界遺産範囲外の地域をどのように保全するのか
ということが明確でない、
具体的には「完全性」が不十分であるとの判断であったと思います。

<後編はこちら>