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■ 研究員ブログ25 ■ 多様性は失われているか

先週末、世界遺産検定が無事に終了しました。
受検をされた皆さま、お疲れ様でした。

世界遺産委員会も世界遺産検定も終わり、
今夏の世界遺産関連行事はひと段落ですね
……というのは世界遺産アカデミーだけか。

新規世界遺産登録された『平泉』や『小笠原諸島』では
これからが盛り上がるところでしょうし、
ここからが遺産保護の正念場でもあるわけですから。

世界遺産というのは「世界の多様性」を守る作業です。
逆に言えば、それだけ世界の多様性は失われつつある、ともいえます。

世界は「人間」にとって住みやすくなる一方で、
固有の文化や生態系は少なくなっているように感じます。

小笠原諸島でも180年前の入植以降、
人や物の往来によって外来の動植物が持ち込まれ、
固有の生態系は危機に直面しています。

また伝統文化や伝統的な生活習慣は、
近代以降の社会や生活様式の変化の中で、
画一化が進んできています。

それは近代国家成立過程で
積極的に画一化が進められてきた側面もあります。
例えば神仏分離令で仏教が打撃を受けた裏で、
神道も、西欧的な国家宗教を目指した政府によって利用され、
神社の統合、祭祀の統一などが図られました。
神道も大きな打撃をうけ、その多様性を失ったわけです。

画一化された世界は楽だ、というのは確かなことなのでしょう。
どこにいっても同じような街並みに、よく知っている商品が並び、
どこでも同じ方法で買い物が出来る。
どの神社やお寺に行っても同じように参拝すればよくて、
街の人とも同じように挨拶をすれば問題がない。
面白くはないですが、困難や苦労もない。

海外でもそれは、程度の差こそあれ同じようなものです。
「英語が出来たら、世界中どこででも仕事が出来る」
なんてテレビCMで言っているのを聞くと僕はぞっとするのですが、
英語や特定の文化が、それ程の力を持ちつつあるのも現実です。

そうした世界の多様性減少の流れに逆らっているのが
世界遺産だと僕は思っています。

ただ、世界遺産になったために、
固有の生態系が危機に陥ったり、
観光客受け入れのために画一化されたシステムの中に
既存の文化を入れざるを得なくなったりすることは、
『平泉』や『小笠原諸島』だけでなく、さまざまな世界遺産で起こり得ることでしょう。

僕は世界遺産を訪れる皆さんにはぜひ、
世界遺産で苦労をしてきて欲しいと思います。
参拝の仕方がわからなくて恥をかいたり、
思い通りに行かなくてイライラしたり、
食べなれないものを食べてお腹を壊したり……。

便利さや楽さではなく、苦労や困難さの中に、
世界遺産の存在意義である多様性はあります。
そうして世界遺産を見ればクリフォードの言うように、
嘆くほど世界の多様性は失われていないと
気がつくかもしれません。