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■ 研究員ブログ42 ■ 長崎の教会群でどうでしょう?


あんなに暑かった8月も明日で終わります。
処暑を過ぎた辺りから、朝の窓から入ってくる風がずいぶん秋らしくなって、
季節が変わるんだなぁと実感します。

夏の始まりが、世界遺産委員会の季節だとしたら、
この夏の終わりは、日本から推薦する世界遺産が決まる季節です。
毎年大体、8月末に暫定リストの中から次の候補が決まり、
9月末の世界遺産条約関係省庁連絡会議でそれが了承されます。

これまでは8月末の文化庁の文化審議会特別委員会で決定した遺産が
そのまま日本からの推薦遺産になっていましたが、
今回はそれが違っています。

今回は内閣官房の有識者会議が、
文化庁のとは別の遺産を推薦候補として決定しました。

最終的にどちらが選んだ遺産が推薦されるのか決まるのは、
来月末の世界遺産条約関係省庁連絡会議か、
そこでも決まらなければ関係閣僚会議にまでもつれるかもしれません。

なぜ今回このようなことになっているのでしょうか。

それは内閣官房が今回推薦している遺産
「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」が、
文化財保護法では保護できない、稼働中の工場や港湾を含んでいるのと関係しています。

昨年2012年5月の閣議決定で、
稼働中の工場や港湾を含む遺産を世界遺産に推薦する際には、
内閣官房が事務局をつとめる有識者会議から推薦できるようになりました。

先述の通り、稼働中の工場や港湾は、
文化財保護法による文化財の指定をすることが出来ないため、
世界遺産に推薦するためには景観法や港湾法などを駆使して
保護する必要があります。

そして文化財保護法の適用外の遺産は、
文化庁の管轄から離れるため、内閣官房から推薦できるようにしたのです。

稼働中の産業遺産を何らかの方法で保護しなければ、
企業の経済的な視点から見て、いつか建てなおされてしまう危険性が常にあります。

そのため、稼働中の産業遺産を守り残してゆくために、
文化財保護法以外の枠組みで保護するというのはとてもよいことです。

遺産は「道具」と同じで、生きて使われてこそ意味を持つものだと
僕はずっと思っています。
その点で稼働中の産業遺産の保護には大賛成です。

しかしその一方で、世界遺産登録の観点から見たときに、
文化財保護法だから文化庁、その適用外だから内閣官房、というように、
縦割りで対立させるようなやり方が果たしてよいものなのか甚だ疑問です。

省庁間のパワーバランスによる駆け引きで推薦する遺産が決まるというのは
どちらの遺産の関係者にとっても、僕たち一般の人々にとっても
すんなりと納得できるものではありません。

そう考えた時に、僕は文化庁の推薦する
「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を支持したいと思います。
……こんなことを書くと、また怒られそうですが。

「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は
2007年より暫定リストに記載されて、じっくりと準備を行ってきました。
地元の人々にとっても、生活の中にある教会群が世界遺産を目指すということで、
住民の中にも温めてきた思いがあります。

「明治日本の産業革命遺産」が、
世界遺産登録を目指す上でテクニカルに背骨となる物語を作ったのと比べ、
「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は人々の間に
しっかりと浸透し根付いた物語があるように感じられます。

そして長崎の教会群が世界遺産登録を目指す2015年は、
潜伏していたキリシタンが大浦天主堂で信仰を告白した「信徒発見」から
ちょうど150周年にあたります。

世界遺産に大切なのは、地元の人々の理解と協力、
そして守り伝えてゆきたいという熱い思いです。
遺産を本当に守ってゆくのは、そうした地元の人々なのですから。

その点で今回は「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の方が
ふさわしいのではないかと、僕は思うのです。

「明治日本の産業遺産群」が世界遺産にふさわしくない、ということではなく、
2015年の世界遺産候補には「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が方が
よいのではないか、ということです。
実際「明治日本の産業遺産群」の方が、
推薦を考えた時に課題が多い、というのもあります。

この仕事に就いた頃、長崎を訪れ、
五島列島にある教会群を50ccのレンタルバイクで回ったことがあります。

いくつかの教会群は、
すでに信者もなく博物館のようになってしまっていて寂しかったのですが、
多くの教会は今も信者が大切に守っているのを感じました。
そして教会群がまた個性的で、日本の風景にもよく合っているのです。

世界遺産になることは本質的なことではなく、
世界遺産にならなくても、その価値は変わりません。

それでも世界遺産を目指すのであれば、
そうした人々の願いが叶うといいなぁと思っています。

まぁいろいろと書きましたが、
僕は、ただ長崎の教会群が好きなんですね、はい。

来月の世界遺産条約関係省庁連絡会議での決定を楽しみにしています。