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■ 研究員ブログ44 ■準備は出来ているか。

今日は中秋の名月です。
中秋の名月がぴったり満月になると嬉しいですね!
次に中秋が満月になるのは8年後らしいです。
覚えておかなくては。

先日、スタジオ・ジブリの『風立ちぬ』を観てきました。
零戦を設計した実在の人物「堀越二郎」がモデルとなった物語は、
昭和初期の恋愛映画のようでしたが、
観てよかったなぁと思える映画でした。

こうした堀越二郎のように、一途にモノを生み出そうとした人々が、
近代日本の技術力を支えてきたのだと思います。
職人的ともいえるその姿勢は、どこか憧れてしまうものがあります。
確かに、「零戦」という戦闘機を開発することに対して
二郎はあまりに無邪気であったとは思いますが……。

今回、2015年の世界遺産登録を目指して推薦される遺産が
「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」に決まりました。

この遺産が証明しているのが、
まさにそうした人々がつくり上げた産業国家としての日本の姿です。

重工業が日本の経済を支えて高度成長を成し遂げたという
日本のかつての栄光を、これらの遺産から感じることが出来ます。
日本人はもっと自信をもっていこうよ、と。

ここまで政治的なイデオロギーの強い日本の遺産は
初めてではないでしょうか。

世界遺産は、そもそも文化遺産や自然を後世まで守り伝えてゆこう、
というためのものです。
「保護」が主目的であることは、
1978年に世界で最初に登録された、
あまり有名な遺産ばかりとは言いがたいような12件の遺産を見るまでもなく
世界遺産条約の正式名称「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」
からも明らかです。

それがいつしか、保護よりも「観光」に重点が置かれるようになり、
今回はさらに「政治的なイデオロギー」に重点が移ったように感じます。

産業遺産がいけない、というコトでは決してありません。

今回「明治日本の産業革命遺産」を推薦するにあたって、
「遺産を保護する」ことよりも、強い日本を取り戻す、といったような
政治的なイデオロギーが優先されている気がするのです。

なぜなら、8県にまたがる28の資産を、
一体としてどのように保護し管理してゆくのか、
民間企業の下で稼働中の遺産を今後どう保全して残すのか、
稼働中の遺産が老朽化した場合はそのまま残せるのか、
移築して残すことは可能なのか、その費用はどうするのか、
端島のような風化しつつ遺産をどの状態でどのように止めるのか、
そもそも風化を止めることは可能なのか、など
現時点で不明な点が多すぎます。

文化財保護法よりも規制のゆるい港湾法や景観法では、
保護しきれない部分が必ず出てきます。

遺産を保護する、ということを考えれば、
「明治日本の産業革命遺産」はあまりに準備不足ではないでしょうか。
それでもいま推薦する、という政府の姿勢が僕は気になります。

世界遺産をひとつも持たない国が、
何が何でもひとつ世界遺産を持ちたい、というのとはわけが違います。

富士山も準備不足のまま世界遺産になってしまい、
登録されてから、入山料も含めどのように保護するのかでゴタゴタしたことを
すっかり忘れてしまったかのようです。

また、当初は別の遺産として世界遺産登録を目指していた
萩の城下町や松下村塾なども含んでいますが、
産業革命を支えた精神性などが評価されにくいことは
鎌倉の事例からも明らかです。

釜石の遺産がひとつ入っているだけで、復興支援になる、
と言ってしまうのもどうなのかと思います。

三池炭坑や端島、韮山反射炉、八幡製鉄所、萩の街並など、
個別の遺産は魅力的で、ぜひ保護して残していきたいですし、
世界遺産になる価値はあると思っています。

推薦が決まったからには、万全の準備で望んで欲しいです。
来年2月の推薦書提出まで、あまり時間はありません。

地域の人々も含め、世界遺産登録後も見据えて、
準備をしていってもらいたいと思います。

満月といえば、炭坑節ですものね。