■ 研究員ブログ45 ■ ICOMOSの調査員は何者?
台風が過ぎると気持ちのよい晴天ですね。
今日は昼でも半円の月が見えていました。
秋の空は本当によろしい。
昨日まで富岡製糸場にICOMOSの調査員が来ていたのですが、
こんな晴天の下で見たもらいたかったなぁと思います。
今回、「富岡製糸場と絹産業遺産群」の調査に訪れたのは、
中国の趙豊(ツァオフェン)さんです。
この方は中国国立シルク博物館館長で、
古代シルクやシルク生産、シルクロード交易などの専門家だそうです。
昨年、鎌倉がICOMOSから「不登録」の勧告を受けたころから、
ICOMOSの調査員とは何者なのか!? という質問を
よく受けるようになりました。
ICOMOSの調査員はそんなに偉いのか!? とか。
世界遺産センターは、各国から文化遺産の推薦書を受け取ると、
ICOMOSに専門調査の依頼をします。
パリにあるICOMOSの本部は、その推薦書の内容をみて、
ふさわしい専門家を調査員として現地調査に派遣します。
この時どのように調査員を選ぶのかは公開されていませんが、
推薦書の内容から、研究内容が遺産の価値に近く、
また遺産を保有する地域と共通性のある文化圏や地域の人物から
選ばれることが多いようです。
日本に来るICOMOSの調査員に中国の人が多いのも、
日本と同じ東アジア文化圏にあり、価値観を理解しやすい
という点が考えられます。
富士山の調査に来たのはカナダの方でしたが、
彼女は香港大学で研究を行っており、
日本の遺産の価値を理解できると判断されたのだと思います。
ユネスコが費用を抑えるために、近場の調査員を派遣する、
という話も聞いたことがありますが、
そういう側面もなくはない、という程度ではないでしょうか。
また今回、趙豊さんがICOMOSの会員ではないという報道もあり、
ICOMOSの会員ではない人物が調査にこられるのか!? という驚きもありました。
しかし、ICOMOSがいくら専門家集団だとはいえ、
世界のさまざまな価値をもつ遺産すべてに対応できる専門家を抱えている、
というのは現実的ではありません。
そのため、遺産の価値ごとにふさわしい専門家を探し、
ICOMOSが依頼する形で派遣することがあります。
そうして選ばれた調査員ですが、
今度は、たった2日の調査で登録の可否を判断するのか!? との疑問があります。
しかし、そうではありません。
ICOMOSの現地調査は、推薦書に書かれた内容の確認を中心に行います。
ですので、推薦書の内容に沿った説明と、保全計画の実情などの解説が、
文化庁や自治体のスタッフから行われ、
あくまで推薦書の内容が正しいのか、また保全計画が実情に即しているのか、
などが調査員によって確認されます。
もちろん、推薦書からだけではわからない現地の雰囲気を感じる、
という点も重要です。
ICOMOSの調査員は現地調査が済むと、
だいたい年内のうちに報告書をまとめます。
その報告書を元に、ICOMOS本部にて検討が行われ、
追加資料の提出や改善必要か所などがあれば、
年末から年明けにかけて遺産保有国と自治体に連絡が来ます。
その後、ICOMOS本部が、審査結果と提言を評価報告書としてまとめ、
世界遺産委員会の6週間前までに世界遺産センターに提出します。
ですので、現地調査をするICOMOSの調査員というのは、
遺産の登録の可否を、「最後の審判」のキリストのように裁く責任者、ではなく、
推薦書の内容を現地で確認する作業員(?)のようなものなのです。
……作業員は言いすぎか。すみません!
趙豊さんは、資産の範囲や保全管理計画など4つの点で特に関心を示したそうですが、
それが文化庁や地元自治体の意図どおりに理解してもらえているといいですね。
紡績関連の世界遺産はあっても製糸関連のものは少ないので、
「富岡製糸場と絹産業遺産群」は大丈夫なのではと、
僕は期待しています。