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■ 研究員ブログ49 ■ クリミア半島のものは誰のもの?

東京の桜の花びらは、強い風ですっかり飛ばされてしまいましたが、
まだまだ歩いていると色々な花が咲いています。
家から駅まで歩く途中では、少し遅めの紫木蓮が花開いていました。

この季節は、陽射しも人々の服装も、新入生や新社会人も、
すべてが「春」らしくて、なんだか平和だなぁ、と感じてしまいます。

でもここのところ、戦争なんてどこか遠くの話、なんて思っていたのが、
もしかしたらそうでもないのでは、なんて気がしてしまうのは僕だけでしょうか。

東アジアだけでなく、世界中でなんだかザワザワしています。

先月から今月にかけては、ウクライナ情勢が大きく動きました。
国境線があのような形で変更されると怖くなってしまいます。

今回、ロシアが実効支配することになったクリミア半島は、
九州の半分ほどの大きさの島ですが、
第二次世界大戦中にクリミア半島南部の都市ヤルタで
米英ソの首脳が会談したヤルタ会談が開かれたことでも知られています。

そしてこのクリミア半島には、世界遺産もひとつあります。

2013年に登録された『タウリカ半島の古代都市とチョーラ』です。
「タウリカ半島」というのはクリミア半島の近世以前までの呼び名です。
古代ギリシャの古代都市と農業景観を残しているとして、
文化的景観の価値が認められました。

ここは当然、「ウクライナの遺産」として世界遺産登録されました。
しかし今回、ロシアが実効支配したことによって、
その帰属はどこになるのでしょうか。

世界遺産が登録された後に帰属が変更した、というのは聞いたことがありません。
東ドイツの遺産が統一後にドイツ連邦共和国の帰属に変わったことはありましたが、
それとこれとは、全く意味合いが違います。
分裂したユーゴスラヴィアともまた違います。

世界遺産条約を見てみても、
登録以前に紛争状態にある地域の遺産について、
世界遺産リストへの記載が「紛争当事国の権利に影響を及ぼすものではない」、
との記述が第13条にありますが、
登録後のそうした問題については触れられていません。

そして、実効支配を国際社会が認めていない場合、
そもそも世界遺産登録されないか、
もしくは実効支配する国には帰属していないようです。
……先例ではそうなっています。

イスラエルはエルサレムを実効支配していますが
それが国際的には認められていないため、
『エルサレムの旧市街とその城壁群』はイスラエルには帰属しません。

では、ウクライナの遺産として登録されたこの遺産は、
どういう扱いになるのでしょうか。

ウクライナの遺産のまま
「武力紛争の勃発あるいはその恐れ」があるとして、
もしくは
「保護の度合いを弱めるような遺産の法的地位の変化」
などの理由で危機遺産リストに記載されるのでしょうか。

それとも、ロシアの遺産として帰属が変更になるのでしょうか。

現段階では、どのような扱いになるのか判りませんが、
今年の世界遺産委員会が難しい判断を迫られるのは確実です。

EUですら及び腰なのですから、
世界遺産委員会には手に余る難題だと思います。

6月15日から始まる世界遺産委員会は
いろいろな意味で注目です。