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■ 研究員ブログ53 ■ 富岡製糸場、世界遺産登録のその先へ!

カタールのドーハで行われている世界遺産委員会で、
『富岡製糸場と絹産業遺産群』が無事に世界遺産登録されましたね!
昨年の『富士山-信仰の対象と芸術の源泉』に引き続き、
日本から18番目の世界遺産となりました。

富士山に比べて、富岡製糸場は世界遺産委員会での審議時間も短く、
順当に問題なく登録されたような印象があります。
フランスから導入された技術で日本が近代化を遂げ、
それが目に見える形でしっかり残されている、という点が、
ヨーロッパをはじめとする世界の人々に分かりやすかったのでしょう。

世界遺産となった『富岡製糸場と絹産業遺産群』が今後
真剣に考えて行かないと行けないのは、保全と観光の問題です。

世界遺産は、最近特に、「観光」という視点が最も注目されます。
世界遺産になったらどれだけ経済効果があるのか、
どれほどの観光客を呼び込むことが出来るのか、
急激な観光化により地域住民の生活はどのような影響を受けるのか……。

こうした観光の視点は確かに重要なのですが、
世界遺産はまず「保全」があっての「観光」です。

2000年代のはじめには世界遺産委員会も観光の問題に注目し、
「世界遺産を守る持続可能な観光計画」の策定について動き始めました。

「持続可能な観光」自体は、
1988年に国連の専門機関である「世界観光機関(UNWTO)」が定義しています。

そこでの、地域社会は経済的にも文化的にも、生活の質においても観光の恩恵を受ける
べきである、
という考え方は、基本的な部分で、
リオ・デ・ジャネイロで1992年に開催された地球環境サミットの「アジェンダ21」や、
2014に年に世界遺産条約40周年会合で出された「京都ビジョン」とも共通します。

そのためには、世界遺産をもつ地域の人々すべてが、観光資源としての世界遺産を共有
し、
その保護・保全に積極的に取り組んでゆく必要があります。

世界遺産になったのに、観光収入があまり増えなかったり、
観光客が増えすぎたことにより生活の質が悪化したりした時にも、
地域住民全員が同じ方向を向いて行動していけるのか、
それが世界遺産の保護・保全にとって重要なのです。

観光に力を入れるあまり、保全が疎かになって世界遺産の価値が損なわれれば、
観光自体に大きな影響を与えるだけでなく、
地域の文化や人々の生活にも大きなダメージを与えてしまいます。

世界遺産にならない方がよかった、ということもあり得ます。
世界遺産登録以前の生活にはもう戻れないのですから。

そもそも世界遺産になって観光客が安定的に増えているのは、
日本でも『屋久島』や『白神山地』、『白川郷・五箇山の合掌造り集落』など、
ほんのひと握りの世界遺産にすぎません。
世界遺産になっても観光客数が減っている遺産も少なくないのです。

『富岡製糸場と絹産業遺産群』は、世界遺産としての価値では申し分がありません。
その価値が生み出す恩恵を地域の人々が具体的に享受し、
この遺産をアイデンティティとすることが出来るようにすることが、
今後、求められることです。

具体的な修復計画や、観光客受け入れ策、渋滞対策など
細かな事象を解決してゆくことも、もちろん重要ですが、
その前に地域住民全員が共有できる大きなイデオロギーを示すことが、
もっともっと重要だと、僕は考えています。

……『富岡製糸場と絹産業遺産群』に限った話ではありませんが。

それにしても、やはり新しい世界遺産が誕生するのは嬉しいですね!
それも『富岡製糸場と絹産業遺産群』のように、
知れば知るほど魅力が増す遺産が登録されるのは、本当によろしい。

連日のサッカー観戦で寝不足気味のボケた僕の頭が
久しぶりにすっきりしました!