■ 研究員ブログ54 ■ 2014年世界遺産委員会が終わっての雑感
2014年の世界遺産委員会が終了しました。
今回も、『富岡製糸場と絹産業遺産群』が世界遺産登録されただけでなく、
世界遺産が最初の世界遺産誕生から36年を経て1,000件の大台を超えた1,007件になったこと、
イスラエルが隔離壁を築こうとしている土地が、パレスチナの世界遺産となったこと、
シルクロードやインカの道など、トランス・バウンダリーの道の遺産が登録されたことなど、
大きな話題がいくつもありました。
一方、今回さらに気になったことは、
ICOMOSやIUCNなどの諮問機関による事前審査の軽視です。
今回、ICOMOSやIUCNが「登録」勧告を出した18件は、
範囲拡大も含めてすべて「登録」決議になりました。
一方で、ICOMOSやIUCNが「情報照会」勧告をしていて
「登録」決議となったのが2件。
ICOMOSやIUCNが「登録延期」勧告をしていたにも関わらず
「登録」決議となったのが9件。
そして、ICOMOSやIUCNが「不登録」勧告をしていたにも関わらず
「登録」決議となったのが1件。
こうしてみると、「登録延期」と「不登録」から大逆転で登録された遺産が、
全体の4割弱にも達することがわかります。
これってちょっと深刻なことだと思います。
世界遺産委員会の場所が、どんどん外交のサロンと化していって、
本来の遺産保護の立場から離れていってしまっているのではないかという思いが
僕の中で年々強くなってきています。
無形文化遺産を巡る政治的な駆け引きなどを見ていても感じるのですが、
せっかくよい理念に基づいて活動している世界遺産条約や無形遺産条約などを
政治的な主張の場として利用したり、理念を骨抜きにしたりするのは、
やめてもらいたいと思います。
ほんとうに。
新しい世界遺産が誕生するのは、喜ばしいことなのですが、
どこかもやもやしてしまった今年の世界遺産委員会でした。