■ 研究員ブログ55 ■ 世界遺産としての富士山、2度目の夏
ものすごい台風が来ていますが、
皆さん大丈夫だったでしょうか?
東京には今夜から明日にかけてやってくるようなので、
今日は早めに帰ることにします。
7月に入り、富士山が世界遺産になって2度目の山開きを迎えました。
富岡製糸場の世界遺産登録よりも、
富士山世界遺産登録から1年! という方が話題になるくらいですから、
富士山への関心は依然として高いようです。
今年の富士山の山開きで話題になったのは、
やはり「富士山保全協力金」という名の入山料の徴収です。
ひとり当たり原則1,000円を任意で集めることになりました。
僕は「入山料の徴収」自体には賛成です。
世界遺産だけでなく、どの遺産や自然の保護・保全にもお金が絶対に必要です。
どんなきれいごとを言ってもこれは変わりません。
ただ「任意」で「1,000円」を徴収し、
その使い道は、山梨県と静岡県「それぞれに任されている」
という現在のあり方には疑問があります。
◆ 現在の入山料徴収の問題点とは?
本気で富士山の保護・保全をすることが目的なのであれば、
登山者全員から集めるべきです。
保護・保全の観点からいえば、
「山は誰のものでもない。だからお金を取るのはおかしい。」
というのはナンセンスです。
また、徴収することによって登山口が混雑するのであれば、
山開き期間中ずっとマイカー規制にし、シャトルバスの料金に上乗せする、
というやりかたも可能です。
信仰の対象として毎日「登拝」をしているという人がいるならば、
その人には定期券のようなものを発行するというのもありですし、
一回の入山料で何日間(何回)か登れる、ということもできます。
そもそも「1,000円」という金額はどこから算出されたのでしょうか。
本来、「富士山保全協力金」というのであれば、
富士山の保護・保全には何をしなければならず、
そのためには何が必要で、いくらくらいかかる、
という使用目的が先に決まっていて、
そこから入山料はいくらが相応しい、という議論になるのが筋です。
今回の入山料は、使い道が静岡県と山梨県にそれぞれ任されており、
何にいくら使われるのか不透明です。
そもそも入山料の徴収も、
山梨県が山開き中の7月1日~9月14日の間、24時間対応で徴収するのに対し、
静岡県は山開き中の7月10日~9月10日の間の日中のみの徴収となっており、
足並みがまったく揃っていません。
世界遺産条約履行のための作業指針の中では、
トランスバウンダリー・サイトは、
関係する国で共同の管理委員会・機関を設立して、
遺産全体の管理を監督すること、が強く推奨されています。
富士山もこれと同様の対応が求められます。
山梨県と静岡県がそれぞれの都合と目的意識で
富士山の保護・保全を行っているようでは、
世界遺産『富士山-信仰の対象と芸術の源泉』の管理としては
大いに問題ありだと思います。
◆ 広報と教育の重要性
とはいえ、富士山の保護・保全で最も重要なのは、
国や県の方針よりも何よりも、登山者一人ひとりの意識です。
どんなに立派な保全計画ができても、どんなに保護・保全にお金をかけても、
登山者一人ひとりが、富士山を大切にし、価値を守りながら後世に伝えたい、
と思わなければ、絶対に保護・保全はうまくいきません。
入山料でもうひとつ気になる点がそこにあります。
入山料を払うと、
「こちらはお金を払っているのだから、これぐらいはしてもよいだろう。」
という驕った考え方をもつ人が出てきてもおかしくないのです。
登山者だけでなく、富士山に関係するすべての人の保護・保全意識を高めるためには、
やはり広報と教育が重要になります。
富士山の価値を知ってもらうだけでなく、
その価値を守り伝えてゆくには何をしなければならないのか、
ということを理解してもらうことが、保護・保全の大前提です。
入山料は、バイオトイレの設置や登山道の整備だけでなく、
ぜひ広報と教育に力を入れて使ってもらいたいです。
もちろん、入山料を何に使ったのかの明細開示も。
入山料の徴収も含め、試行錯誤を繰り返しながら、
富士山の保護・保全に最もふさわしいやり方が見つかるといいですね。
何といってもまだ世界遺産2年目に入ったばかりの新人なのですから。
富士山には3度登りましたが、
あの達成感はやはり素晴らしい。
多くの人が気持ちよく富士山頂に立てると嬉しいです。