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■ 研究員ブログ71 ■ 明治日本の産業革命遺産⑧:日韓協議を終えて、今後の展望

2015.05.26p

先週末、明治日本の産業革命遺産をめぐる、
日韓の政府間協議がありました。

結果は、想像していたとおり、平行線のまま終わったようですが、
こうした意見交換の場を設けていくということが重要だと思います。

韓国側は、朝鮮人などが強制徴用された7資産の
推薦取り下げを求めています。

その7資産とは、
「官営八幡製鉄所」「三池炭鉱、三池港」「長崎三菱造船所第三船渠」
「長崎三菱造船所ジャイアント・カンチレバークレーン」
「長崎三菱造船所旧木型場」「高島炭坑」「端島炭坑」です。

この7資産の取り下げは、あり得ないと思います。

というのも、今回の遺産はシリアル・ノミネーションで推薦されています。
シリアル・ノミネーション・サイトは、
個々の資産が集まって「ひとつの」顕著な普遍的価値を証明するものです。
個々の資産は、それぞれ異なる側面を証明しているのです。

つまり、基本的には、ひとつでも資産が欠ければ、
顕著な普遍的価値に対する「説明不足」になってしまうはずです。
一応そういうことになっています。

ですので、「7資産を取り下げて世界遺産登録する」というのは
世界遺産登録の本来の姿から考えると、あり得ません。
……政治的にゴリゴリいったら知りませんが。

日本が世界遺産委員会の委員国であるのは今年までです。
そのため、「審議の延期」などで来年以降に審議が延期されると、
登録のハードルは更に上がると考えられます。

今回、確実に登録するためにはどうしたらよいか。

やはり、1910年までの遺産の価値証明、だけでなく、
それぞれの資産がその後どのような道を辿ったのか、
その過程で、どのようなマイナス面が、
資産そのものや社会に対してあったのか、
ということをはっきりと明記することだと思います。

1910年以降は、これらの産業が定着し、
現在も稼動している資産もあると書いているので、なお更です。

今回、ICOMOS(イコモス)から出された勧告に8つの提案があります。
そこに、「個々の資産が顕著な普遍的価値とどのように関係しているのか説明する」
と同時に、「個々の資産の歴史の全貌を考慮した説明をするように」とあります。

これは、資産の説明を不自然に限定すべきではない、ということです。
朝鮮人の強制徴用、だけに限った話ではありません。

韓国政府も、頭ごなしに
世界遺産への推薦を取り下げろと言っているわけではないと思いますので、
日本側も柔軟に対応すべきだと思っています。

朝鮮人などの強制徴用について説明を一文加えたところで、
それは、韓国の圧力に「負けた」ということではありません。
明治日本の産業革命遺産を世界遺産登録する、というのが目的なのですから。