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■ 研究員ブログ86 ■ 世界遺産らしくなくてもいいじゃない……国立西洋美術館本館

2016.02.12

建国記念日の祝日だった2月11日。
上野で用事があった帰りに、今年の世界遺産登録の候補になっている、
「国立西洋美術館本館」の前を通ってきました。
休館日で開いていなかったので、
文字通り、前を通ってきただけです。

門の前の大道芸人に人だかりができ、
動物園や博物館から帰る人々が上野駅に向かう、
ほんとに多くの人が行き交う国立西洋美術館本館の前ですが、
門が閉じられた国立西洋美術館本館に目を向ける人は
ほとんどいません。

見たとしても、カラヴァッジョが描いたバッカスが
ふてぶてしくも色っぽい視線を投げかける
「カラヴァッジョ展」の看板くらい。

立ち止まって門の中の建物を覗いていたのは、僕だけでした。

この、どちらかというと「地味」な建物が、
もうすぐ世界遺産になるかもしれないと知っている人はどれほどいたでしょうか。

「世界遺産」というと、
「富士山」や「ケルンの大聖堂」、「ローマのコロッセウム」など、
誰もが「おっ!」と足をとめて見上げてしまうような、
そうした特別な存在感をもったものだと、
多くの人が考えていると思います、たぶん。

もちろん、そうした圧倒されるようなものも登録されていますが、
そうでない遺産もたくさん、世界遺産にはあります。

こうした「一般の人々の認識」と「世界遺産の実態」が
かけ離れてしまっているため、
観光に訪れて「がっかり」したり、
「こんなもの」を世界遺産にする必要があるのかと憤ったりしてしまうのです。

世界遺産は、私たち人類や地球が、長い年月歩んできた歴史を証明し
次の時代へと受け継いでゆくものです。

人類や地球の宝物を守り伝えるのが世界遺産なのではなく、
歴史を証明するさまざまな時代や文化、地域などを代表する遺産を守る仕組みが世界遺産です。
そうした遺産が結果として、人類や地球の宝物となるのです。

世界遺産を訪れた時には、「見た目」を楽しむだけではなく、
そこが人類や地球の歴史にとってどのような場所だったのか、
その地域が世界の中でどのような存在だったのか、
ぜひ想像してみてください。

その意味で、世界遺産条約にも書いてありますが、
「世界遺産を学び」、「世界遺産から学ぶ」ことをしなければ、
こんなに手間も時間もお金もかけて「世界遺産」というシステムを
維持していくメリットはかなり減少してしまいます。

一方で、世界遺産をもつ地域の人々は、
世界遺産を通して自分たちの歴史や文化を世界に発信する
とても有効な手段を手にすることになります。

平泉の「無量光院跡」や、佐賀の「三重津海軍所跡」など、
想像力をフルに活用しないと価値がわかりにくいところは、
逆に考えれば、「本当の価値」を知ってもらいやすいところと言えます。
なぜなら「見ただけ」ではよくわからないからです。

まず地元の人々が、地元の世界遺産に興味をもって足を運び、
地元の文化や歴史を再確認し誇りをもつ。
それをユネスコを通して世界に向けて発信する。

文化や歴史に興味をもってもらえれば、
世界遺産以外の地元の文化財などにも関心が広がり、
ユネスコが求める「世界の多様性」にも繋がってゆくと思うのです。

先日、Eテレの番組でもご一緒させていただいた
弁護士の本村健太郎さんが、佐賀県出身ということで、
「三重津海軍所跡」をラジオやテレビで紹介されたそうです。

地方都市が自信と活力をもてば、
世の中もっともっと面白くなるはずです。
世界遺産はそのように活用すれば存在意義が増します。

本村弁護士のような著名人による活動も
どんどん応援させていただきたいと思います。

せっかく世界遺産になるのなら、
観光客を集めるだけなんてもったいない。
世界に情報を発信してゆく拠点にしないと。
それが観光客の増加にも繋がるわけですし。

見た目が「世界遺産ぽくない」遺産こそ
「世界遺産らしい」遺産なのかもしれないですね。
そんな気がしてきました。
……言いすぎかな。

世界遺産ぽくない国立西洋美術館本館も、
「世界遺産とは何か」を伝える遺産になるといいですね。
今年の世界遺産委員会での登録を楽しみにしています。

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