■ 研究員ブログ101 ■ 税金を逃れるために家を壊す!?……アルベロベッロのトゥルッリ
先日、消費税の先送りが話題になりましたが、
今のままでも給与明細を見るたびに、
税金の占める割合にがっくりとしてしまいます。
日本が財政的に厳しく、納税が重要であることはわかります。
でも普通、家計で考えても、お金が足りなかったら
まず支出を抑えることが先決だと思うのですが、
なかなか支出を抑えるという方向にはいかないみたいで、
そこらへんがすっきりしないんですよね。
加えて、税金で漫画やアイスを買ったりしているのを聞くたびに、
ため息しか出てこないわけです。
税金に悩まされるのは現代だけではなく、
昔から人々は税金に悩まされてきました。
税金の苦悩をうかがい知れるエピソードをもつのが、
第25回世界遺産検定のメインビジュアルにもなっている、
イタリアの世界遺産『アルベロベッロのトゥルッリ』です。
南イタリアのプーリア地方では、トゥルッリと呼ばれる、
石を積んだ円錐形の屋根が特徴の家屋を見ることが出来ます。
中でも、アルベロベッロにある
アイア・ピッコラ(Aja Piccola)とモンティ(Monti)の両地区には、
トゥルッリが集中しており、世界遺産に登録されています。
この地方では、先史時代から受け継がれてきた石灰石を用いた建築法が使われており、
壁は石灰石を積み重ねて漆喰を塗り、屋根は石灰石を円錐形に積み重ねています。
モルタルなどで固定せず単純なつくりになっていますが、
それには2つ理由があると考えられています。
1つ目は、この地域を治めていた領主が、
自分に従わない反抗的な住民の家を簡単に破壊して懲らしめるため。
2つ目は、同じく領主が、
自身の主君であるナポリ国王に支払う税金を少なくすますため。
2つ目の税金の過少申告はどういうことかというと、
領主は国王の徴税人の訪問を知ると、
領民に課税対象である家屋を取り壊させ、
納税額が少なくなるようにしていたというのです。
これは、17世紀の記録にも残されているそうです。
ひどい話ですねぇ。
この地域は、雨が少なく、水場からも遠いだけでなく、
石灰岩の大地に鋭い陽射しがさす、
開拓農民として入植させられた人々が
必ずしも快適に暮らせる環境ではありませんでした。
トゥルッリは、そうした環境に人々が対応しながら進化してきたもので、
厚い壁で外の乾燥した大気を遮断し、
雨水は屋根を伝って地下の水槽に溜められるなどの工夫がなされました。
また、建材である石灰石は、周辺から手に入れやすいものでした。
領主のこうした自分勝手な理由で
家がたびたび壊されるという苦難を味わってきた人々は、
18世紀末にナポリ王国の直轄地になることを求め、
領主のくびきから逃れることができました。
その頃から、トゥルッリは作られなくなります。
ラテン語の地名であった「silva arboris belli(美しい木々の森)」から、
「美しい木」を意味する「アルベロベッロ(Alberobello)」と名づけられました。
こんな美しい名前の街にも、つらい歴史があったのですね。
つらい歴史がかわいらしい街並みを残したともいえるのですが。
因みに、このおとぎ話に出てきそうなアルベロベッロは、
日本の昔話に出てきそうな白川村と姉妹都市になっています。
『アルベロベッロのトゥルッリ』と
『白川郷・五箇山の合掌造り集落』には、
独自の伝統的な集落が残るという価値の登録基準(v)が共通するだけでなく、
このようなつながりがあったのですね。
世界遺産は、いろいろなところにつながっていて、
やっぱり面白いです。