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■ 研究員ブログ110 ■ 人は空を目指す……パリのセーヌ河岸

2016-12-12

東京はここのところ、初冬らしい抜けるような青空で、
思わず青空を見上げてしまいます。
毎朝、職場に向かう車窓から見える富士山も、
雪によってくっきりとした輪郭がとられています。
都心からでもしっかり見えるのです。

青空に浮かぶ雪の富士山は、いつもに増して神々しく感じられます。

人々は古代より、空を見上げてきました。
太陽を崇拝し、天体の動きを観察し、恵の雨を望み、
そして天上世界へと近づこうとしました。

各地のピラミッドやオベリスク、教会堂の尖塔や五重塔など、
世界遺産にも多く登録されている世界中の巨大建造物は、
そうした人々の天上世界への思いが少なからず詰まっています。
世界中で見られる山岳信仰の根底にも、
空に近づくものへの憧れがあるのだと思います。

一方で、そびえ立つような建造物を造ることは、
景観の問題と深く関係しています。

キリスト教の世界観を体現するゴシック建築である
『ケルンの大聖堂』を造った時には、
「景観を壊すようなものをつくるな!」
などという反対運動はなかった(と思います)が、
人々が「景観」を文化の一部と意識するようになってからは、
そうした反対運動が起きてきます。

例えば現在、パリ市南端のポルト・ドゥ・ヴェルサイユ・エキシヴィジョン・センターに
トライアングル・タワー(La tour triangle)の建設計画があります。
このトライアングル・タワーは、パリの歴史的景観を損なうとして、
市民の反対運動があり、ユネスコも懸念を表明していました。

しかしパリ市は、パリの新たなシンボルとして建設を推進し、
一度は否決されたものの、2014年の再投票では建設が決定しました。
来年(2017年)から建設が開始される予定です。

実はこの手の話、パリにとって初めてではありません。

今はパリのシンボル的な存在となっている「エッフェル塔」も、
1889年に、パリ万国博覧会に向けた建築計画が発表されると、
市民だけでなく、多くの芸術家や文化人の中からも大反対が起きました。

空を切り裂くように鉄の塊が高くそびえる姿は、
歴史あるパリの街並みを愛してきた彼らにとって、あまりに奇抜だったのです。
それも、高さがエジプト最大のクフ王のピラミッドの約2.5倍もあるのですから。

反対派の文学者ギ・ドゥ・モーパッサンは、
「パリの中で唯一、いまいましいエッフェル塔を見なくてすむ場所だから」と、
エッフェル塔の下のカフェによく通ったといいます。
そこからは、真上を見上げない限りエッフェル塔の姿が見えないからです。

しかし万国博覧会が開催されると、「エッフェル塔に登ろう!」という合言葉のもと、
200万人もの人々が押し寄せ、大変な人気を博しました。

そして今では、エッフェル塔の景観を守るために、
エッフェル塔の周囲には高い建物を建てることが法律で禁止されています。

実際にパリを歩いてみたり、パリの写真を見るとわかるのが、
歴史的な建造物を邪魔する建物がない、ということです。

エッフェル塔はエッフェル塔だけで、すっと立っているし、
ノートル・ダム大聖堂もルーヴル美術館も、アンヴァリッドも、
視覚的に邪魔するものがないので、実に美しく見えます。

こうした景観は、マルロー法や風景法、フュゾー規制などで、
厳しく守られてきたものです。

街は生きています。
景観も変化してゆくのは仕方がないのだと思います。
ただ変化するにしても、周囲の歴史的景観との調和は最優先で考えなければなりません。
2005年に出された「歴史的都市景観の保護に関する宣言」においても、
その点が強調されています。

エッフェル塔でも、むき出しの鉄の建造物が、
少しでも風景と馴染むように、色が三色に塗り分けられています。
下のほうの濃いブラウンから、少しずつ薄いブラウンへと変化しているのです。

僕の好きな歌に、ドメニコ・モドゥーニョが歌う
『Nel blu dipinto di blu(青く塗られた青の中へ)』
というのがあります。
この曲、タイトルもよろしい。

澄み切った青空に映えるエッフェル塔を見ていると、
この曲が頭に流れてきます……フランスの曲ではないんですけどね。