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■ 研究員ブログ120 ■ タージ・マハルは地球環境保護のシンボルになるか!?

人類の宝物とも称され、さまざまな文化や歴史、自然を代表する世界遺産ですが、
その中でも、世界中の人々から世界遺産のシンボルのように
扱われている遺産がいくつかあります。
これこそ世界遺産だよね! と考えられているような遺産です。

そのひとつが、インドの世界遺産『タージ・マハル』です。
「人類の傑作」の登録基準(i)のみで登録されている
数少ない世界遺産のひとつでもあり、
『タージ・マハル』が世界遺産であることに疑問を抱く人は
少ないのではないでしょうか。

白亜の大理石に美しいアラベスク文様で装飾が施され、
左右対称の均整の取れた姿でたたずむその外観のみならず、
シャー・ジャハーン帝が愛する妃のために築いた
「愛の証」ともいえる建造の物語がまた、人々を惹きつけるのです。

シャー・ジャハーンが最盛期を築いたムガル帝国は、
インドを代表する大帝国です。
しかし、16世紀から300年近くインド北部を中心に繁栄した
強く美しいムガル帝国の裏側には、
皇帝の座をめぐる血塗られた歴史がありました。

初代皇帝バーブルがムガル帝国を興した16世紀は、
世界規模で歴史がつながりだした時代です。
ヨーロッパでは大航海時代の真っ只中で、
日本やアジア各地、南米にもヨーロッパ人が訪れました。

バーブルが後継者に長男のフマユーンを指名した頃はまだ後継者争いは穏やかでした。
父と子の間にも信頼関係があり、フマユーンが遠征先で病に倒れた時には、
占い師から「自分が持っている最も価値の高いものを手放さなければならない」と
告げられたバーブルが、自分自身こそが最も価値の高いものであるとして、
自分の命を捧げる祈りの儀式を行ったほどでした。

しかし、ムガル帝国の基礎を確立した
第3代皇帝アクバルの後継者争いの頃から対立が激しくなってきます。
アクバルと息子のジャハーンギールは激しく対立し、
ジャハーンギールが第4代皇帝になるとその4人の息子たちは、
次の皇帝の座をめぐって争い合いました。
その争いに勝利したのが、第5代皇帝となるシャー・ジャハーンです。
シャー・ジャハーンは、遠征に乗じて長兄を殺害した後に弟も殺害して皇帝の座に就きました。

そんなシャー・ジャハーンが皇帝になるずっと前、
15歳の青年であった彼は3歳年下の美しい少女と出会います。
2人はすぐに恋におち、5年後に結婚しました。

その少女がムムターズ・マハルです。
2人は深く愛し合い、激しい後継者争いをするシャー・ジャハーンを
ムムターズ・マハルは常にそばで支え続けました。
2人は遠征に行く時も常に一緒でしたが、
妃は、14人目の子どもを産んだ後に体調を崩し、36歳の若さで亡くなりました。

シャー・ジャハーンは何も手につかないほど深く悲しみ、
2年間喪に服すと彼女のための霊廟を造り始めます。
世界各地から白大理石や宝石などの素材や職人を集め、
約20年の歳月をかけて世界で最も美しい霊廟が完成しました。

しかし、血塗られた後継者争いの歴史は彼の元にも訪れます。
シャー・ジャハーンの4人の息子たちもまた激しい後継者争いを行い、
次期皇帝に指名されていた長男が、後に第6代皇帝となる三男のアウラングゼーブに殺されると、
シャー・ジャハーン自身も皇帝の座を下ろされてしまいました。

シャー・ジャハーンは、タージ・マハルと一対になる
自分の霊廟を造ろうとしていましたが、それは叶いませんでした。
亡くなるまでの7年間、彼は幽閉先の城の窓から妃の眠る霊廟を眺めて過ごしたといいます。
この幽閉先の城も『アーグラ城』として世界遺産に登録されています。

アーグラ城で息を引き取ったシャー・ジャハーンの遺体は、
タージ・マハルに移され、霊廟の中心に置かれていた妃の棺の脇に置かれました。
そのため、ここだけ左右対称にはなっていないのです。

美しさも物語性も申し分がない『タージ・マハル』はいま、
危機に直面しています。
皇帝の妃への愛の証であった純白の霊廟が、
大気汚染によって汚れつつあるのです。
そのためインド政府は厳しい排出基準を定めた
タージ・トラペジウム・ゾーン(TTZ)を設定するなど、
対策に取り組んでいます。

大気汚染は遺産そのものだけでなく、
周囲の環境、人々の生活にまで大きな影響を与えます。
そしてこの大気汚染やCO2の過排出などは、
一国だけの問題にとどまりません。

世界がつながりだした時代に作られたタージ・マハルは、
地球環境保護の観点からもシンボルとなり得るものです。
各国の指導者の考え方の違いによって
地球規模の環境保護が揺らぐことのないよう、
シャー・ジャハーンの愛の力を示していけるといいですね。

シャー・ジャハーンの愛を、
ムムターズ・マハルから地球環境へ。
彼もきっと納得してくれるはずです、たぶん。