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■ 研究員ブログ126 ■ 世界遺産へ踏み出した百舌鳥・古市古墳群の課題は!?

台風5号が猛威をふるっていますが、
皆さま大きな被害はありませんでしょうか。

最近の天気は本当に極端ですね。
夏は暑けりゃいいんでしょ、ってカーっと照らし、
何、水が足りないの? それなら、ってザーっと降らし、
台風なんだから景気よくいかなきゃ、ってゴーっと吹かせ、
……なんだかお付き合いしにくい感じがします。

天気はさておき、先日、文化庁の文化審議会で
2019年の世界遺産登録を目指し日本から推薦される遺産に、
大阪府の「百舌鳥・古市古墳群」が選ばれました。
まだ推薦が確定したわけではありませんが、
文化庁文化審議会選出以外の候補はないので、順調に行けば、
秋の世界遺産条約関係省庁連絡会議で推薦が決まり、
年明けに推薦書が閣議了解される、という流れになると思います。

以前、古墳好きの友人と、奈良の明日香地方にある古墳めぐりをしたことがあり、
また藤井寺市教育委員会の世界遺産学習ノートの制作をお手伝いした縁もあって、
「百舌鳥・古市古墳群」を密かに応援していましたので、
今回の決定を嬉しく聞きました。

富士山が世界遺産登録された後、
世界から注目を集める日本の遺産は
「大仙古墳(仁徳天皇陵)」だと思っていたということもあります。

「大仙古墳(仁徳天皇陵)」は大きさの点でもインパクトの点でも、
エジプトのクフ王のピラミッドや、中国の始皇帝陵と比肩するものです。
言うまでもなく、この2件はすでに世界遺産に登録されています。
また、大阪の堺市や羽曳野市、藤井寺市に点在する古墳群は、
日本最大級の前方後円墳や帆立貝形墳、円墳、方墳などを含み、
いまだに多くの謎に包まれる古墳時代を証明するものです。

古墳というのは見れば見るほど、本当に興味深いのです。
かつてこの地にあった文化とはどんなものだったのでしょう。
メキシコのテオティワカンに立って感じた時と同じように、
わくわくと想像力が膨らみます。

一方で、今回の「百舌鳥・古市古墳群」にはまだまだ課題も多くあります。

ひとつ目は、「宗像・沖ノ島」の時も指摘されましたが、
「証拠をしっかりと示すことができるか」という点です。
物証の少ない古代史には「解釈」が多く含まれており、
解釈の部分はまずイコモスでは評価されないと考えなければなりません。

そのために必要となってくるのが、古墳の考古学的な調査ですが、
今回の構成資産49基のうち29基は宮内庁の管轄で、
現在も天皇の「陵墓」として敬われおり、
古墳内部の調査がほとんどできていない状態にあります。

この点について、誰のものかもわからない古墳を
世界遺産にすることができるのか、と、
宮内庁の対応に批判も少なからずあります。

しかし、僕の個人的な意見ですが、
「陵墓」として敬われている以上、
その墓を暴いて調査する必要はないと思っています。
博物館で王のミイラや棺などの展示を見るたびに、
現代人の知識欲のために古代人の墓を開く権利があるのかと思うのです。
知識欲のためだけじゃなかったりするので、なお更です。

ならば今回の遺産の「証拠」はどうするのかといえば、
大型の古墳や陪塚の存在自体が、
巨大な古墳を作れるほどの力をもった王が存在する
階層化された社会体制の証拠である、
という世界遺産の価値証明にするというのもありだと思います。
そろえられる証拠に即した遺産価値にするという逆からの視点に。

大仙古墳が仁徳天皇の陵墓なのか、その息子の履中天皇のものなのか、
考古学的には重要ですが、
世界遺産登録は考古学的な調査が目的ではありません。
まぁ、意見が分かれるところだと思いますが。

2つ目は、日本の古墳時代を証明する資産が、
「百舌鳥・古市」の古墳群だけでよいのか、という点です。

日本最古の古墳のひとつである奈良の「箸墓古墳」や、
斉明天皇の陵墓である可能性が高い奈良の「牽牛子塚古墳」をはじめ、
奈良以外にも、関西各地や福岡、千葉など日本全国に多くの古墳が残されています。
そうした日本各地の古墳を構成資産に含むべきではないかと、僕は思っています。

最近の世界遺産では、同じような特徴をもつものは、
シリアル・ノミネーションで構成資産に含んで広く登録する傾向にあります。

日本の多くの古墳の中から、
古墳時代の最盛期にあたる4世紀後半から5世紀後半の、
大阪の一地域の古墳だけに限定する明確な理由の説明は求められる気がします。

他には、大阪という大都市の中にある資産の「景観」の問題や
保全状態の問題、観光化によるマイナスの側面など、
さまざま考えられます。
特に景観の問題は、今年(2017年)の世界遺産委員会で
「ウィーンの歴史地区」が都市開発による景観問題で
危機遺産リストに記載されるなど、
都市にある世界遺産にとって世界中で課題となっていることです。

世界遺産登録による経済効果を見積もり、
世界遺産登録の目標とするのもよいと思いますが、
それはあくまで世界遺産登録のひとつの付加価値であって、
何のために世界遺産を目指すのか、
今の段階ではっきりさせておくのがよいと思います。

文化審議会での決定を伝える新聞に、
「ピラミッドみたいな存在になるかも。わくわくする。」
と答えた9歳の少年のコメントが載っていました。
世界遺産はこうでなくっちゃ、ね。