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■ 研究員ブログ127 ■ ピーター・パンが飛ぶ新しいロンドンのシンボル、ウェストミンスター宮殿

学生の頃、僕はよく空を飛ぶ夢を見ました。
もうびゅんびゅん気持ちよく空を飛んでいることが多いのですが、
論文の締切が近いのに全然書けていないときなどは、
飛びたいのにうまく飛び上がれず生垣にひっかかったりして、
今思い出しても苦しい夢でした。
論文が書き上がるとまた、ピーター・パンのように
びゅんびゅん飛び回っていたので、
我ながら能天気だなぁと思います。

そのピーター・パンが飛んでいたのが、ロンドンの夜空です。
ウェストミンスター宮殿に付属する時計塔「ビッグ・ベン」の周りを
気持ちよさそうに飛ぶ姿は、本当に楽しげでした。

「ピーター・パン」の中でロンドンの象徴として描かれる
ウェストミンスター宮殿とビッグ・ベンですが、
歴史的に見ても英国の歴史を代表する建物といえます。

現在の英国は4つの国の連合王国です。
そのなかのひとつ、ロンドンのあるイングランドでは、
13世紀半ば、国王の圧政に対して聖職者や貴族、都市の代表などが集会を開き、
法律や税制などに意見を主張するようになっていました。
これが現在の英国議会の始まりです。
この集会が開かれたのが、ウェストミンスター宮殿内のホールでした。

1603年、跡継ぎのいなかったエリザベス1世がこの世を去ると、
議会はスコットランド王をイングランド王ジェームズ1世として迎えました。
ジェームズ1世は、王の権利は神から授けられたものであるとする王権神授説を掲げ、
議会を軽視した独断的な政治を行います。
王位を継いだ息子のチャールズ1世も同じく王権神授説を信じ、
議会に対して強圧的な態度に出るだけでなく、
議会での多数派であったピューリタン(キリスト教プロテスタントの一派)に対して
激しい弾圧を加えました。

議会を無視し、国民の権利を踏みにじる国王に対して、
議会は「権利の請願」を可決し、議会の承認なしに課税をしないことや、
法律を無視して国民を逮捕しないことなどを約束させましたが、王はこれを無視。
議会を解散させると11年間も議会を開かず専制政治を行ったのです。

その後、スコットランドで起きた反乱を制圧するための費用が足りなくなった王は、
議会を召集してお金を工面させようとしますが、
そんな都合よくはいかず、議会からは厳しい反対と批判を受けてしまいます。
怒った王は、自分に従わない議会を武力で押さえ込もうとし、
王を支持する王党派と議会派が対立する内乱に発展しました。
これがピューリタン革命です。

結局、チャールズ1世は議会派に破れ、裁判の末に処刑されてしまいました。
ここから英国史上、唯一国王がいない共和制の時代が約10年間続きました。

このピューリタン革命のきっかけとなったのが、
チャールズ1世が兵士を連れてウェストミンスター宮殿の議場に乗り込み、
ピューリタン議員の逮捕を求めた事件です。

この事件のために、
英国国王は、現在でも庶民院(下院)に足を踏み入れることが許されていません。
400年近くも昔の出来事が現在にも関係しているなんて、面白いですね。

実は、国王は議会の開会に際し、全議員に向けて貴族院(上院)で演説を行のですが、
ここでも、チャールズ1世が議会で処刑された歴史を踏まえて、
国王が議会に行く時には、下院議員1名が人質として
バッキンガム宮殿にとどまるという慣習があるそうです。
こういう伝統を続けているところ、英国らしいなぁと思います。

現在のウェストミンスター宮殿は、
19世紀の火災で焼失した後にゴシック・リバイバル様式で再建されたものです。

『ピーター・パン あるいは大人になりたがらない少年』が
このロンドンで初演されたのは、1904年のこと。
ピーター・パンが飛ぶウェストミンスター宮殿とビッグ・ベンは、
完成したばかりの、ロンドンの新たなシンボルだったのです。

子供たちが年をとらない国ネバーランドに住むフック船長は、
かつて片手を食べたチクタクワニを恐れて逃げ回ります。
チクタクワニは目覚まし時計を飲みこんだために、
おなかの中から針のチクタク進む音が聞こえるのですが、
時計の音におびえるフック船長の姿は、
「時間に追われる大人」を表しているそうです。
1904年の時からもう、大人は時間に追われていたのですね。

大人になりたくないピーター・パンは、
時間に追われる大人が夢見た姿なのかもしれません。

僕は子供だったころ、早く大人になりたい、
と思ったことはあんまりなかった気がします。
逆に子供のままでいたい、とも思っていなかったので、
あまり何も考えずのほほんと子供時代を過ごしていたのでしょう。

それが、年齢的には大人になって、
朝晩、1時間近くもぎゅうぎゅうと電車に押し込まれていると、
子供のころはよかったな、なんて懐かしく思い出してしまいます。
実際は、子供には子供の大変さがあるのに。
まぁ、現実逃避なんでしょうね。
現実逃避ついでに、ロンドンまでひとっ飛び、
なんてできたら最高なのになぁ。

長野県の根羽村にあるネバーランドなら行けるかしらん。