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■ 研究員ブログ143 ■ 課題は多い、IUCNの登録延期勧告:奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島

すでにご存知の方も多いと思いますが、
自然遺産候補として日本から推薦されていた
「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」に対しては
諮問機関のIUCNから「登録延期」勧告が出されました。

これは、4段階の勧告のうち下から2つめ、
登録の可能性があるものの中では最も下の評価です。
このまま世界遺産委員会で「登録延期」決議が出されると、
根本的な推薦書の練り直しが必要となり、
手続きだけで、登録までにまた数年かける必要があります。
かなり厳しい内容だったと思います。

◆ どのような勧告だったのか

今回の勧告内容を簡単に言うと、
世界遺産としての価値を示し保護するために、
「必要な地域が入っていなくて、必要ないところが入っている」
ということだった思います。

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」は、
日本列島の南端に位置する琉球列島の中の4つの島で、
琉球列島の形成に伴う種の分化・固有化の過程と、
この地域の生物種の多様性を証明する遺産です。

そのため、登録基準(ix)「生態系」と(x)「生物多様性」で
推薦されていました。

しかし、(ix)「生態系」については、
登録基準に合致しない、と完全に否定、
(x)については、
登録基準に合致する可能性はあるけれども、
構成資産の大きな見直しが必要である、という評価でした。

今回の推薦地域を見ると、
4島の陸域の一部のみがエリアになっています。
推薦書には、科学的検討の結果この4島の陸域の一部になった、とありますが、
この推薦エリアだけで琉球列島全体の生物種の分化・固有化と多様性について
証明するのは無理があるような気がします。
自然遺産は全くの専門外なので見当はずれでしたらすみません。

琉球列島のうち、
屋久島のある大隅諸島からは入っていないので
「北琉球」からは構成資産なし、
奄美群島からは2島、沖縄諸島から1島なので
「中琉球」からは3島、
先島諸島の八重山諸島から1島なので
「南琉球」からは1島。

保護の体制や、固有種や絶滅危惧種の生育・生息数など、
いろいろな条件から選ばれたのだとは思いますが、
本当にこの4島の陸域の一部だけで充分なのか疑問もあります。

実際、推薦書の登録基準(ix)の中で、
「推薦地は中琉球と南琉球を代表する4地域であり、
それらを併せることで、琉球列島全域の地史を反映した
大陸島に特徴的な種分化・系統的多様化の進行中の過程を
明白に表す顕著な見本となっており・・・」
と書かれていますが、
それはIUCNから否定されてしまっているわけです。

重要な地域は含んでいるけれども、
「資産の分断」によって、生態学的な持続可能性に重大な懸念がある、と。

ここで述べられているのが、「完全性」です。

世界遺産の考え方の中で、保護・保全に必要な要素が
全て「完全」に揃っていることを示すのが「完全性」です。
そこには、資産の「適切な大きさが確保されている」というものも含まれます。

つまり、充分な広さ、ということが重要だということです。
これは周辺の環境が遺産価値に大きく影響する
自然遺産で特に重視されるものです。

今回、登録基準(x)の方でも、
米軍北部訓練場の返還地を含めるよう求められるなど、
この完全性における「適切な大きさ」という点で問題があったように感じます。

米軍北部訓練場の返還地の辺りは、
世界遺産そのものとなるエリア(プロパティ)がむき出しになっており、
本来設定されるべき緩衝地帯(バッファー・ゾーン)がないというのも、
当然ながら問題視されたと思います。

米軍北部訓練場抜きの「やんばるの森」の保護は不可能であるというのは、
日本自然保護協会などの見解が示す通りですし、
同じく指摘の通り、
他のエリアでも緩衝地帯が「充分に広い」とは言えない気がします。
推薦地図を見た感想ですが。

◆ 今後どうするのか

今回の「登録延期」勧告の内容は、
しっかりと腰を据えて対応する必要がある
重い内容だと感じます。

内閣は米軍北部訓練場の返還地も、
2018年中に国立公園に組み込む方針を示していますが、
それは可能でしょうか。

訓練場の調査・検証や、放置されたゴミの除去など、
国立公園に組み込む前にすべきことは多くあります。
また米軍北部訓練場は全てが返還されたわけではないため、
返還地のみを保護対象としたところで、
今回のIUCNからの指摘に完全に対応しているとは言えません。

また、土地の所有者や利用者が、世界遺産地域の管理に
戦略的かつ日常的に参加するようにも求められていましたが、
先日の研究員ブログでも書いたように、
地域の人々がその辺りを理解するための、
国や自治体の努力が不十分であったように思います。

これらの勧告内容に対応するためには、
無理に今夏の世界遺産登録を目指すのではなく、
推薦書を取り下げて再挑戦し、
万全の状態で登録を目指す方がよいのではないでしょうか。

世界遺産委員会で「登録延期」決議が出たら、
結局、今、推薦書を取り下げるのと同じく
2020年以降に審議される遺産に回されます。
それであれば、今から早く動き出した方がよいと僕は思います。

この地域の生物多様性は貴重ですし、
世界遺産になる価値は充分にあると思っています。
準備を進めてきた多くの人々の気持ちを思うと残念ですが、
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が
苦労を経たことで遺産価値や保護体制が明確になったように、
「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」でも
準備万端で世界遺産委員会に臨めるとよいですね。

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の
今後の動きに注目です。

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